少女の闘志
「それにしても君のところの次の走者は凄いねぇ。」
金髪が指差したのは、うちの第5走者…つまり彼女だった。
「あの人…もの凄く迫力あるけど、もしかして実力も見た目通り凄かったりするのかなぁ?」
VR整形が基本の世界だ。見かけ倒しという可能性も大いにある。
賞金狙いの金髪としては、その能力がかなり気になるところなのだろう。
「ある意味凄いんですけどね…中身は子供です。女の子です。」
「え?」
あいた口が塞がらないという呈だ。
俺も初めて見たときはこんな感じだったのかもしれない。
「アヴァター設定時にミスした結果らしいんですけど、中身は外見と違って本当に可愛らしいんですよ。」
「それはまた…なんとも衝撃的だねぇ。」
彼もまたあの時の俺と同じ様に、想像を逞しくして気分を悪くしたのだろう。
実際に話してみると更におぞましいのだが、慣れてくると脳内で補正が働くようになる。
「私の場合ほんの少し体をいじっただけでも結構キツかったけど、あの子を走らせて問題ないかなぁ?」
この見事な肉体は、完全にVR整形の賜物というわけでも無いようだ。
だとしたら、きっと何かしらスポーツをやってきた人なのかもしれない。
「多分大丈夫です。ここに来るまでの間に十分慣らしで運動させましたから。」
「陸上経験者の私でもまだ少し違和感が残っているぐらいだから、用心はしたほうが良いねぇ。」
「ここに来る前に指導してくれた方がいまして。そのおかげで問題は大分解消したようです。」
「そんな簡単にどうにかなるとは思わないけど…やっぱり子供の適応力が凄いってことかなぁ?」
「指導者と適応力。その両方だと思いますよ。といっても教わったのは短時間でしたから、動くのは問題なくても技術とか経験の部分は子供並です。」
実際、軽い体操程度なら問題なくこなせるようになっていた。
スペースの問題があったので走ることについては未知数だが、腿上げやストレッチをさせた感じでは、力の調整や間接の可動の加減も特に問題ないはずだ。
「何も指導されてない素のままの方が早いってこともあり得るさ。後天的に覚える技術だけで速く走れるわけではないからねぇ。」
才能の事か…まあ俺自身はあんまりだな。
「君以外は全員子供なんだね…もしかして君もかい?」
「いえ、俺は高校生です。まあ貴方にしてみれば子供かもしれませんが。」
「いや、私も君とそんなには変わらないさ。社会人ではあるがねぇ。」
話しているうちに第4走者から第5走者へ繋がってゆく。
少女は適度の緊張に表情がキリリと引き締まっている。
彼女が発する、強者のオーラのようなものに当てられた周囲の大人たちは、腰が引けビビっている。
前の3人は、この場から早く立ち去りたいという気持がはっきりとわかる程に慌てふためき、安全確認もそこそこにスタートを切る。
そのおかげか今までの走者よりも早いスタートが切れていた。
少女も負けじと、遅れてやってきた第4走者からバトンを受け取ると、先行する3人目掛けて猛追撃する。
やや内股な走り方で遅くなりそうなものだが、丸太の様に太く長い足から繰り出される大きなストライドで相殺している。
俺からすると一生懸命さが伝わってくる良い走りなのだが、周りからすれば『獲物に喰らい着かんとする猛獣の走り』に見えているようだ。
背中に『ドドドドド!!』という書き文字が見えそうなド迫力。
足を踏み出すたびに『コハア』と漏れ出る呼気がさらに恐怖を演出している。
「「「ヒィィィィィ!お助けー!!!」」」
前を走る3人は恐怖から逃げ出そうと、更に一層足の回転を速める。
急激にペースが上がる。
明らかにオーバーペースだ。
「あの走り…危ないなぁ。焦りすぎだよ。」
金髪の心配も解る。
もうすぐコーナーだというのに3人はペースを緩めようともしない。
ブレーキが壊れた自動車の様に、我先に逃げ込もうと必死でコーナーの内レーンへと殺到する。
予想以上の勢いでコーナーにほぼ同時に突入した3人は、身体の逃げ場を失ってぶつかり、もつれ合って転倒した。
ほとんど間を開けずにその直後を走っていた少女は、何とか巻き込まれまいと身体を捻るが避けきれず、彼らに躓き、宙を跳び、3人を越え、地面に激突し、もうもうと砂埃が立つ。
4人が巻き込まれる大転倒。
まるでモーターレースのクラッシュシーンのように派手な転倒劇に呆気に取られる俺たちの方に、砂埃の中から何かがこちらへ向かって放物線を描いて飛び込んで来た。
バトン…俺の『ファミリー』のバトンだ。
それはまるで吸い寄せられるかのように、リレーゾーンに待機している俺の足元まで撥ね飛び、転がってきた。
まるで少女の闘志が宿っているかのようなバトンが、俺に『行け!』と囁いているような気がする。
願っても無いチャンスだ!
少女の想いを繋ぐバトンを拾うべく、腰を屈めようとする。
それを目にした金髪が、目を見張り鬼気迫る声で叫んだ。
「拾うな!!!!!」
いいや!拾うね!!!
止められない…いや止める気など元より無い。
これこそが俺の望んだ結果だ。
「ダメだ!拾うな!拾うんじゃねえッッ!!!!」
俺は金髪の口調まで変わってしまう程に悲愴な静止を振り切ってバトンを拾い、身を翻して走り始めた。
審判が宣言する。
この時点で俺たちの勝敗は決した。
金髪さんの語尾と一人称を統一したら、なんか気持悪いキャラになってしまった。
登場回から微妙に修正しましたので、今後はちょっとカマっぽい感じで行きます。




