まずは現状確認から
強制転移の影響で一瞬ブラックアウトした意識が覚醒する。
『ファミリー・ルーム』に到着して俺が真っ先に行ったのは、『しーふぉー』氏の最後の言葉の確認であった。
急いで管理画面を開くと、『検索』や『プレイヤーコール』などの他のプレイヤーと連絡を取ったり、調べたりする項目の文字が、通常の白から灰に変換されている。
それらを選択しようとすると、<<ブブーッ>>っと警告音が鳴り、警告文が現れる。
<警告:プロッフェッショナルモード中はこちらの機能を使用できません。>
他の灰文字も全て試したみたが、同様の警告音と警告文が現れるだけだ。
そういえばチュートリアルの時にマリオンが、『ファミリースポーツ・オンライン』は将来的にプロ化する予定と言っていたはずだ。
その機能が既に実装されていたということなのだろう。賞金が出るのだからプロと言えなくは無い。
公営賭博の競技では、八百長防止の為に競技者と外部との情報のやり取りを遮断することがある。
もしかするとこれはその一環なのかもしれない。
他のプレイヤーの情報が探れなくなっている為、どれだけのプレイヤーが残っているのか、誰が帰還できたのかを探る術は無い。
つまり年長組の安否を確かめる事が不可能になってしまったということだ。
完全に全員が帰還できたかを確かめる為には最終戦まで到達しなければならない。
しかしそれは余りにもリスクが高い選択だ。
―――最終戦での敗北は死。
他のプレイヤー達を色々と見て回った感想としては、俺よりも身体能力の低そうなプレイヤーは少なくなかったので、最終戦までワザと行っても、弱いプレイヤー集団と戦うのであれば問題ないのだが、最終戦は最も弱い『ファミリー』同士が戦うのではない。最も負けた『ファミリー』同士が戦うのだ。
―――『ファミスポ』では勝者に解放と賞金が与えられる。
『観客者数に応じた賞金額』というのがどの程度かはわからないが、現在は参加『ファミリー』が多いので、自然と観客も分散されるはずで賞金額は大した額ではなかろう。
序盤はいかにして生存権を獲得するかという争いになるはずだ。
通常スポーツの試合ってやつは、ファイナルに近付くほど視聴率が高くなるはずだ。
最終戦に向けて『ファミリー』数は1戦毎に半減し、それを見る観客数は単純計算で倍になる。
それが最終戦ともなれば、全てのリソースが集約されるのだから賞金額は相当な金額になる可能性がある(まあ『ファミスポ』が人気コンテンツでなくて、観客の絶対数が少なければ話は別だが)。
恐らく賞金狙いの命知らずな気違い野朗どもが最終戦に集まって、血で血を洗うようなバトル(スポーツだが)が待っているに違いない。
そんな場所には絶対に行きたくない!
…行きたくはないのだが、絶対にあいつらが帰れているという保障も無い。
大人3人と統率の取れた年長組の『ファミリー』なのだから、少なくとも俺の『ファミリー』より遥かに高い確率で抜け出せるはずだが、それも当たり運次第ではわからない。
もし俺が帰還して、あいつらが帰還できなかったらどうなるだろうか?
法律的には、おそらく緊急避難(カルネアデスの板だったかな?)とみなされて無罪だと思う。
しかし親たちは何故子供たちを置いてきたのかと俺の生き汚さを呪うだろうし、何より俺自身の心が自責の念に耐えられないだろう。
それでは生還したとしても、その生に意味は無い。
あいつらを助けなければ、結局のところ自分自身も助からないのだ。
だから俺はあいつらの生還が確認できるまで負け続ける事にする。
もちろん助けるべき子供は俺の『ファミリー』の中にもいるから、勝てる試合には勝って、トレードで俺が敗戦『ファミリー』の誰かと交代すれば良い(そうしたら賞金も貰えて両得だしな)。
その間に、俺たちの『ファミリー』もトレード交渉で子供を帰還させて、同時に強化する。
同じ『ファミリー』内でも帰りたいヤツと賞金が欲しいヤツがいるだろう。
その辺りを上手く交渉できれば実現可能であろう。
それにあまりにも深刻に考え過ぎのような気もする。なんだかんだで編成の時もアレだけ多くの人たちが、子供たちを助けようと協力してくれたのだ。
とりあえずは最強の『ファミリー』結成を目指そう(そしてあわよくば高額賞金をゲットする)。
俺の方針は定まった。