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ファミリースポーツ・オンライン  作者: Dちう
『ファミリー』
18/68

また会うその日までさようなら

現在ここに残っているのは、俺とワルガキ6人と、その他の子供7人、そして子供たちの世話を最後までしてくれていた大人4人の合わせて18人。


つまり『ファミリー』3つ分丁度。


制限時間もそろそろ終わりが近い以上、もう俺たちも『ファミリー』を組んでゲームの準備を始めなければならない。引き取り手が途切れて人数的にも丁度割れるので、ここが潮時だと判断した。




残されたのは、異常改造されたアヴァターだったり、癇癪持ちだったりと扱い難い子供たちである。

交渉材料としても戦力としても不安のある、これらの子供を引き取ろうとする人は稀であった。


更に深刻なのが、未だに親が見つからない迷子が居る事である。


いくら広いとは言っても、これだけプレイヤーの数が減ったパーク内で、固まって待つ子供の存在に気付かないはずは無いのに、子供を求めて叫ぶ親の声は聴こえない。


もしかしたら捜すのを諦めて、ゲーム中に遭遇するのを期待したのかもしれない。

迷子を捜しに来たが見つからなかった親だけで『ファミリー』を組むという事例もあった。


だが恐らくは(考えたくない事ではあるが)子供よりも自分の命を優先したのだろう…だとすれば見下げ果て親だ。




迷子の担当をしていた『アベルカイン』氏もガックリと落ち込んでいる様子だ。

どうやら彼の下には2人の迷子が残ってしまったらしい。

残念ながら、あの大きくて厳つい少女も残っていた。

去り際の励ましの言葉は、こうなってしまうと無責任な発言であったと言うしかない。


俺が厳つい少女に近寄ると、彼女は魂の抜けたような顔をこちらへ向けた。


「おにいちゃん…おかあさんもおとうさんも、来てくれないよう。…わたしがこんなに怖い顔になっちゃったから嫌いになったのかなあ。」


静かに両目から流れ出す涙があまりにも雄雄しい。


俺は何も言えず、両手を広げて抱きしめてやることしか出来なかった。


哀しみを堪える為、俺の胸にすがり付き顔を埋めてオオオと嗚咽し、腰を背骨も折れよとばかりに豪腕で締め上げてくる。


ワザとではないのが判っているので、空気を読んで必死に耐える。腰周りの筋肉が現実通りであれば、俺は間違いなく昇天していただろう。


このまま湿っぽくしていても埒が明かない(というか俺が絞め殺されてしまう)ので、残った5人の大人同士で『ファミリー』分けについて議論を始めることにした。






「それでは誰がどの子を引き取るかですが、みなさん希望があったらおっしゃってください。」と、この場で一番年長(に見える)の壮年の男が口火を切る。


『プレイヤーネーム:しーふぉー』氏は、アヴァターをかなり改造しているという話で、改造に適応しきれず苦しんでいた子供たちに、肉体の動かし方・調整方法を指導してくれていた。

現実世界でもスポーツ指導者だったようで、過去に誤った指導法から、過度のトレーニングによって身体を痛め引退し、後進に同じ様な思いをさせない為にその道に進んだという苦労人であった。

漫画知識だけの俺とは比べ物にならない程確かな指導のおかげで、無理な動きで肉体を傷め(実際にそれで壊れるかはわからないが)て苦しむ子供はいなくなった。


そういう人だったので、彼が主導権を持つ事に異を唱えるものはいなかった。


「それなんですが、いっそ子供たちに選んでもらいませんか?僕たちで決めるのも良いですが、彼らにだって命を託す人を選ぶ権利があるでしょうし。」迷子担当の『プレイヤーネーム:アベルカイン』氏が提案する。


だが、女の子を担当してくれていた『プレイヤーネーム:マザーマリア』さん(母性的というよりはエロさ満点・わがままボディの釣り目美女)が反論した。


「好き嫌いで判断しては競技に支障が出るかもしれないわよ。ここは時間をかけてでもギリギリまで適性とか考えて話し合うべきじゃないの?」


「その場合は大人で調整するようにしましょう。均等割りには出来ないのし、誰か一人は必ず子供を5人引き受けなければならないでしょう」と、その反論に『アベルカイン』氏が答えた。


3組で大人5人なら組み合わせは2通り。

2・2・1か3・1・1。

子供だけで組ませるという組み併せは当然除外しているのだろう。


俺はこのような事態は予測済みだったので、既に年長のワルガキ3人に「誰か頼る大人を選ぶことになったら『アベルカイン』氏を頼れ」と言付けてある。


彼らも現状を理解していたから、「りょーかい。にいちゃんが選んだ人なら安心して良いんだろ?オレたちなら大丈夫だから心配すんなって。」と励まされてしまった。本当に出来た子分たちだ。


『アベルカイン』氏には、先ほど少女を抱きしめに行った際に事情の説明と、「もしもの場合は~」とお願いしたところ、「わかりました、任せてください。でもあの子達は僕なんかよりずっとしっかりしていますから、逆に僕の方がお世話になってしまうかもしれませんね。」と承諾を得ていた。やはり彼にお願いしておいて良かった。


本当は頼りがいのある『しーふぉー』氏にお願いしようかとも思っていたのだが、彼が世話をしていたアヴァター改造組の子供たちと、彼の間に強い絆が出来ているのが子供たちの懐き様から見て取れたので自重した。

他の協力者達と違って彼がここに最後まで留まったのは、自分が携わった活動を最後まで見届け、責任を果たす為であろうと考察できる。

そんな責任感の強い彼にこそワルガキ共を託したかったが、だからといってあの懐いてる子供たちを彼から引き離してまで頼む事はできないし、恐らく彼自身もあの子達と共に行くことを望むだろう。

アヴァター改造組の子供は5人…もう彼の『ファミリー』と言って良いだろう。





「そうだよね。ねえ『マリア』、もう時間も無い事だし子供たちに決めてもおうよ。」


年少組を世話していた『プレイヤーネーム:スカルブランダー』氏が、寄り添っていた『マザーマリア』さん(どうも2人はリアルで恋仲らしい)をプルプルと子犬の様に身体を震わせながら諭そうとする。


切れ長の目で『マザーマリア』さんがキッと彼を睨むと、キャンッと怯え、青菜に塩した様に萎れて、スゴスゴと彼女の後ろに引き下がった。

普段からの力関係がはっきりと判る遣り取りだ。良く調教されている。

ビクビクと震えて彼女の後ろに控える『スカルブランダー』氏の姿があまりにも哀れで、萎れた犬耳と尻尾を空目してしまう。

まあ仲が良いコンビ…カップルだと言えるんだろうなあ。


その遣り取りを見ていた子供たちは、彼女のあまりの女王様っぷりに引いてしまっている。




彼氏のそんな姿を見て、自分でも悲しくなったのか、

「あー、もう。わかったわよ。一応反対意見も言っておいた方が良いかと思っただけだから。それでいきましょう。」と意見を翻した。特に拘っていたわけでは無いようだ。


全員の意見が一致したということで、いよいよ子供たちに自分のリーダーとなる大人を選ばせる。

大人5人が1列に並び、子供たちに向かって『マザーマリア』さんが、音頭を取って宣言する。


「それじゃあボクたち。今から分かれて、助けて欲しい人のところに集まりなさーい。」


走り出した子供たちは、我先にと自分の命を預ける大人の下へ駆け寄る。




『しーふぉー』氏の下へはアヴァター改造組の5人が。


『アベルカイン』氏の下にはワルガキ年長組の3人が。


『マザーマリア』さんと『スカルブランダー』氏の下には誰も集まらなかった(「なんでよ!!」と『マザーマリア』さんがキーッとヒスって叫んで暴れそうなのを『スカルブランダー』氏が恐る恐る宥めようとして引っ掻き回されている…合掌)。




そして俺の下にはワルガキ年少組3人と、迷子組の2人が駆け寄ってきた。




あのダメ大人っぷりを見せられた後で、あの二人の下に誰も行かなかったのは仕方あるまい。

もしかしてワザとやっていたのではないかとも思ったが、あの悔しがり様は本物だ(と思う)。


流石は『しーふぉー』、予想通りの人望だ。

彼に率いられたならば、間違いなくあの子供たちは脱出できるだろう。


迷子組の2人は『アベルカイン』氏の下に行くと思っていたので予想外であったが、考えてみればそれでは彼に5人も押し付けてしまう事になってしまう。


俺自身の負担は重くなるかもしれないが、一人は気心の知れた(?)少女である。


もう一人の子とは特に面識は無いが、大人しそうな男の子なので大した負担ではなさそうだ。


むしろ、あの疲れる大人二人のどちらかに参加されるよりは精神的に楽だ。


それに、もしかすると死に別れるかもしれない極限状況の中で、カップルの二人を織姫と彦星の如く引き裂くのは可哀想だ。


大人3人に年長組を託せたのだから安心してゲームに臨めるというものだ。





これで『ファミリー』が3つ揃った。



そして残り時間は数分という所まで迫っていた。



『アベルカイン』氏をリーダーとした『ファミリー』が登録を最初に終え、『ホーム』への移動準備を慌てて行う。


「それじゃあ行きますよ!…オープン!!」


『アベルカイン』氏が宣言すると空間に扉が現れ、自動的に開く。


扉の出現にワクワクが隠せないガキどもが、俺に向かって手を振った。


「それじゃあ、にいちゃん。あいつ等のことよろしくな。」年長組ともしばらくお別れだ。


「ああ、任せとけ。俺たちはちょっと遅くなるかもしれないが、お前達先に帰ったら年少組の親御さんに、絶対俺が連れて帰るから安心して待っててくれと伝えてくれや。」先に現実世界に戻るであろう年長組にフォローを頼む。


さぞや子供たちの親は心配して帰りを待っているであろう。

少しでも親たちを安心させてやりたかった。


「わかった。にいちゃんちにも大丈夫って言っておくから、ゼッタイ帰って来いよな!」


「よろしくな。あと『アベルカイン』さん達に迷惑をかけないように大人しくしてろよ。」


「わかってるって。オレたちのネコ皮の厚さを舐めんなよな!」


信頼はしているが、こいつらの面の皮の厚さも相当なものだ。

礼儀という面ではかなり心配がある。


「…後でフレンドコールして確かめるからな。」一応念を押しておく。


逃げるように「じゃねー」と言いながら3人とも元気に扉の先に消えていった…心配だ。



「それじゃあ、こいつらのことよろしくお願いします!」これから『アベルカイン』氏には本当にお世話になる。あいつ等を彼が御しきれるか一抹の不安が過ぎるが、大丈夫だと信じたい。


「ええ。どうぞお任せ下さい。いいようにさせてもらいますから。」『カインアベル』さんがニコリと微笑んで手を振る。


「あんたの方が大変なんだからね!しっかりオシよ!」と横から『マザーマリア』さんが励ましてくれる。姉御って呼んで良いですかw


「まあ心配しなくても僕が付いてるからね。大船に乗ったつもりでいてよ!!」

どんな泥舟でしょうか?姉御が手綱を握ってくれてる限りは大丈夫だと思うが不安だ…。


「それではまたお会いしましょう!」


扉の先に進んだ全員の姿が見えなくなると同時に、空間に溶け込むように扉は消えた。




俺と『しーふぉー』氏も登録と移動準備を終え、扉を召喚する。

お互いに子供たちを先に扉の向こうに送ると、最後に堅い握手を交わした。


「君も一人でその人数は大変だろうが、これだけの事をやり遂げたんだ。大丈夫。きっと全員を連れ帰ることが出来るさ。」と励ましの言葉をくれる。本当にいい人だ。


「ありがとうございます。『しーふぉー』さん、色々とご協力やご指導ありがとうございました。」


この人の御蔭で俺を含め多くの人が肉体への不安を少なからず解消することができたし、精神的に強く支えられた。感謝してもし足りないぐらいだ。


「礼を言うのはこっちの方さ。君が始めくれなかったら私はこんな大事なことに気付きもしなかっただろう。現実に帰って新聞やニュースで恐ろしい結果を見て後悔しなくて済んだのだ…君には本当に感謝しているよ。」


照れくさそうに笑い、恥ずかしくなったのかクルリと背中を向けて、顔の横に伸ばした右手の中指と人差し指をビッと立てて別れのポーズを決める。

一々動作がカッコいい人だ。そこにシビレルアコ(以下略)。


「それでは元気でな。またリアルで会おう。」

「はい!お元気で!!」


リアルで会おう…カッコいいセリフ回しだけど、クリア前にお互いコールすれば良いだろう?と思い至って、扉の向こうに消え去りそうな『しーふぉー』氏の背中に呼び掛ける。


「…あ、そうだ。クリアできそうだったらフレンドコールしてくださいね。知り合いがクリアするって判ったら俺も安心できるし…」


と、俺が述べると『しーふぉー』は怪訝な顔をして尋ねてきた。


「…もしかして、君は知らなかったのか?」


は?何のこと?

理解ができなくて戸惑っている俺に向かって『しーふぉー』が告げた。


「ホームへ行ったやつらの検索やフレンドコールが出来なくなっている事を…」


その時、突然警告音が鳴った。


<警告:制限時間終了です。プレイヤーは強制的にホームへ移動されます。1時間後に第一ゲームを開始いたします。>





扉が消失し、目の前が真っ暗になった…


今回は色々挑戦してみましたが、読み難くなってしまってるような気がします。


最終的には全改稿する予定ですので(ホントか?)、お許し下さい。


それではまた次の章でお会いしましょう!

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