最後に残ったのは…
『救世主』と言われてもなあ。
そもそも世界を救ってもいないし、そういうジャンルのゲームではない。
「どこで話が大きくなったか判らないが、俺はそんな大層なものじゃないです。行きがかり上対応せざるを得なくなっただけです…まあ、あの子達をそのままにしておく事はできないって思ったのも事実ですが。」最後の方は少しドヤ顔になってしまっていたかもしれない。
「それが出来るということが、ただ事ではないのです。皆我先にと利己的に屈強な仲間を求めて争う中、君だけが人を助けようと献身なさったのです。さぞやお辛かったでしょう。そのように謙遜なさる必要はありません。むしろ君の行動は誇るべきものです。皆が君の功績を称えています。」
今迄コレほどまでに感謝された事があっただろうか―――いや、ない!
普段褒められなれてないから、あまりに大仰な感謝の言葉に、恐縮してどう返答すれば良いのか困ってしまう。
「そうだ、その子を預かるのでしたね。駆け回って頂いてお疲れ様でした。どうぞ後は私に任せて下さい。あまり時間は無いようですから、頑張って子供達を親元に帰してあげなくてはね。」
俺が困っていることに気付いたのか、話題転換してくれる。
それに時間が無いのも事実だし、他にも俺の助けが必要な仕事は多いだろう。
「それではよろしくお願いします。」と『アベルカイン』氏の言葉に甘える。
「それじゃあ元気でな。きっとお父さん達が迎えに来てくれるから、このお兄さんの言うことを良く聞いて、良い子で待ってるんだぞ。」少女に別れと励ましの言葉をかけてやる。
「ありがとう、おにいちゃん。バイバイ。」と哀しげな顔を無理にニコリと笑わせた姿に胸がズキュンと熱くなった。
外見以外はとても可愛らしい子だったな。
さよならはまた会う日までの遠い約束だ。
無事に帰れたら10年後に会いましょう。
二人に手を振って別れた。
他の担当協力者達と直接面会して進捗状況を尋ねると、例の警告前からそこそこ人が集まってきていたが、アレ以降は加速度的に子供たちが引き取られていくようになっているらしい。
そろそろ勧誘が難しいと悟ったプレイヤー達が、数合わせに利用を始めたのかもしれない。
なんだかんだで数百人規模になっていた子供たちが、現状ではかなり減少している。
協力者達も各自何人かづつ引き取ることが決まっているので、そろそろ『ファミリー』を組んで『ホーム』に行くつもりだと話した。
そういえばパーク内に溢れかえっていた人々も、今ではかなり疎らになっていた。
『救世主<メサイア>』などと崇められていい気になっていたが、そもそも子供たちを助けて回ったのは、助け切れないワルガキを引き取ってもらえる大人を探し、協力を取り付けるためだった。
俺と合わせて7人。つまり『ファミリー』の限界数より一人多い。
このままでは本末転倒で、俺たちを助けてくれる大人がいなくなってしまう。
誰か良い協力者はいないかと思案を巡らせる。
俺に感謝しているヤツが大勢いるというなら、その中の誰かに任せてはどうだろうか?
そうだな…先ほどの『アベルカイン』氏など適任かもしれない。
迷子の面倒を見てたぐらいだから子供のケアとかは得意だろうし、何よりも俺にあんなに好意的だったから、ガキ共を優先的に帰還させるようにお願いしておけば問題なかろう。
年少を他人に任せるのは気が引けるし心配なので、高学年の子供を預けようと思う。
だが、いくら高学年とはいえ一人だけが引き離されるのは心細かろう。
年の小さい子を中心とした組と、しっかりした高学年の組に分ける。
その上で信頼できそうな『アベルカイン』氏に高学年組を預ける…ということで方針は定まった。
残り時間が短くなるにつれ、活動も加速してゆく。
残った子供たちも、空きを埋めに来た大人達に1人また一人と連れられてゆく。
協力者達も、一組、また一組と『ファミリー』を結成して別れを告げていく。
やがて残り時間が僅かになった頃、パークには俺とワルガキを含めて、大人が5人と子供が13人残っていた。