ハーメルンの笛吹き男
とりあえず早急に向かうと告げて一旦通信を切り、走って目的地へと向かうのだが、濡れた布が纏わり付いたように重い。
俺の身体は、力は確実に増しているようだが柔軟性が失われ、瞬発力に欠けるようになってしまった。
持久力もあるとは言い難く、息が詰って苦しいので、それほど遠くない距離を休み休み進んだ。
やがてドームの端の方に近付くと人の数もまばらになる。
人の壁で見えなかった周囲の景色が見て取れるようになってくると、遠くに他の集団と離れて群れる人集りが見えた。
どうもその集団が俺の目的地のようだが、明らかに人数が多い。
しかもどの姿も幼い。全員が子供であった。
あちらのほうでも近寄ってくる俺に気付いたようで、中心に向かって何か叫んでいる。
やがて人集りがモーゼの十戒の如く割れ、中心部分から見慣れたヤツらが「にーちゃーん!」と声を上げながらこちらに駆け寄ってくる。
「なんだ?一体どうなってるんだ?」再会の喜びをひとまず置いて、先ほどまで連絡をした年長のガキに状況を確認する。
「俺がみんなを集めて走り回ってたら、いつの間にか他の子たちが集まってきちゃったんだ。」とこいつ自身もあまり良くわかっていない様であった。
訳もわからぬままこんなところに放り出され、頼るべき親も居ない。
デパートで迷子になってしまったようなものだが、ココには迷子センターなど無いし、周りの大人は自分のことで手一杯で、むしろ子供たちの存在を迷惑にしか思わず、関わるのを避けようとしたはずだ。
今から始まるスポーツゲームで、明らかに能力的に劣り、足を引っ張りそうな子供を、自分の『ファミリー』に招き入れようなどという物好きはいない。
俺だって身内でなければ見て見ぬフリをしたに違いないのだ。
子供は大人達の感情を敏感に察知する。
敵意にも似た感情を向ける見知らぬ大人達は、子供にとって恐怖の対象となっただろう。
そんな中、目的を持って集まり行動する『子供だけの集団』は、誘蛾灯のように心細くなった子供たちの関心を惹くだろう。
助けて欲しい…でも大人たちは怖い。同じ子供の彼等なら救いを求めても拒まれないだろう。
―――そう考えたはずだ。
子供たちにとっては救世主に見えたはずだ。
その結果がこの大集団というわけだろう。
まあ想像でしかないが、そう的外れでもないはずだ。
という事はだ。
そんなカリスマがすがりつく俺という大人は、彼らにとっては菩薩のように見えているのだろう。
―――やめてくれ!俺はそんなに凄いやつじゃないんだ!!
と、叫びだしそうになるのを堪える。
遠巻きにこちらを伺う子供たちの視線には、僅かな畏怖と多大な期待感が見て取れた。
かつて、ガキ共から向けられていた羨望と尊敬の眼差しは、俺に優越感と自信を与えていた。
だがここまで数が増えすぎると、そのプレッシャーに押しつぶされそうになる。
明らかに俺一人では手に余る。
『ファミリー』を組んで何とか勝利して帰還させようにも、1つの『ファミリー』には6人しか所属できないので、この人数はどうしたって定員オーバーだ。子供はざっと50人はいる。
俺以外にも、『ファミリー』の数を整える為に子供を率いてくれる『大人』が何人か必要であった。