嗚呼!
ゲームスタート時にバラバラになってしまう可能性を事前に想定していた俺は、プレイヤー検索システムが存在する場合に一つの対応策を講じていた。
それは…『各自のプレイヤーネームの頭に『ああ』と付ける事』である。
昔なにかで紹介されていた『電話帳の同業種の欄で、先頭に自社名を載せる方法』だが、それをプレイヤー検索システムに応用できないかと考えたわけだ。
これなら幼児でも簡単にできるし、説明も楽だし、たぶん他の誰とも名前が被らなくてすむという利点もある。
残念ながらクソガキ共はこの素晴らしい案に対して「にーちゃん、それかっこ悪い」と理解を示さなかったが、この時ばかりは年長者の強権を振りかざして強引に了承させた。
嗚呼!素晴らしきかな年功序列。
それでも一度決めたことは不承不承でもきちんと守るのが、あのクソガキ共の素直で可愛いところだ。
そして見事に7人分の『ああ』がヒットした。
もちろん『ああ!ふちゅう はるお』という名前もある。
他の6件も『ああ』以下の部分は、あいつらの本名だったので間違いないだろう。
セキュリティ的には多少問題があるが、背に腹は変えられない。
既に全員がチュートリアルを終えてこちらに到着しているようだ。
ヒットした名前の部分に触れると、その人物の現在位置が判るシステムだ。
更に名前の横の受話器マークがあるので、対象の人物と連絡が取れるのだろう。
一先ず全員の位置を確認すると、既に7件とも一所に集まっている。
良かった、手間が省けた。一人ずつ旅の仲間を集めて廻るのを覚悟していた俺は、ホッと一息ついた。
先に来ていた年長のガキが気を効かしたのだろう。
司令官の不在時にも、好判断が出来る優秀なクソガキ達なのだ。
もちろん、普段の俺の薫陶の賜物というヤツだ。
安心したところで件の年長クソガキに<とぅるるるるる>っとコールすると待ち構えていたのか、直ぐに通話状態になった。
「にいちゃん!?にいちゃんか?」泣き出しそうなのを堪え震えている声だ。俺の涙腺もちょっぴりヤバイ。
「そうだ、俺だ。遅くなって悪かったな。全員集まってるのか?みんなは無事か?」先ほどの検索で全員が集まっているはずなのは確認したが、もしかしたらはぐれているヤツがいるかもしれない。
全員が無事にVRに適応できているとは限らず、何らかの不具合を抱えている可能性がある。
アヴァター作成に失敗して酷い目にあっている事もありえる。
そして何より周りの人々が殺気立っている現状は、あいつらの精神に相当な負担となっているはずだ。
<ズズーッ!>と鼻をすする音がする。
「…全員集まってるよ。無事かって言われたら微妙なところだけど、誰も怪我はしてないよ。」
微妙ってなんだよ!?
合流するのが恐ろしい気もするが、言ってみない事には始まらない。
「…わかった。お前達の居場所は確認済みだ。俺がそっちに行くまで、その場から動くなよ。他の人に声かけられても付いて行っちゃダメだからな!」と釘を刺しておこうとするが…
「うん…その事なんだけどね、」と妙に言葉を濁す。
「まさか!知らないオジサンに、誰か付いて行っちゃったのか!?」慌てて聞き返す。
今の状況はとても異常だ。追い詰められて錯乱した大人が子供に危害を加えるかもしれない。
そんなことになったら俺はッ…!!
と、半ば錯乱しそうになったところに
「いや、そうじゃなくて。付いて行ったんじゃなくて…付いて来てるんだ。」という予想外の返事が返ってきたのだった。