到着!
扉を抜けた先にあったのはだだっ広い広場だった。
緑の人工芝が敷き詰められた巨大なドーム状のボールパークに、ゲームをするには余りにも多すぎる人・人・人。
なんだか美形が多いが…多分ほとんどがVR整形だな。
顔や皮膚の色などをいじくるだけなら身体能力には影響ないという判断だろう。
だが、スタイルと顔のバランスが明らかに悪いヤツが多い。
おそらく、生存と欲求の狭間で悩んだ結果のアンバランスなのだろう…俺は別に整形に偏見がある訳ではないが、おぞましいとしか思えない。
まるで文化祭やオタクの祭典のように統一性の無い混沌とした空間の中、大人も子供もお兄さんもお姉さんも…みんな集まって『ファミリー』勧誘を行っている。
様々な要求の言葉や怒声が飛び交い、人が動き、散っては集まる。
どうやらかなり出遅れてしまっている。
急いでチュートリアルを終えたつもりだが、容姿や身体をいじるのに時間を掛けすぎたのかもしれない。
だが、それを差し引いても他のプレイヤー達の行動は早過ぎた。
おそらく彼等は、ほとんどの説明を『スキップ』しているに違いない。
プレイヤー総数というリソースが決まっている以上、早々にチュートリアルを切り上げ、可能な限り早く優秀そうなプレイヤーを選定し、『ファミリー』を組んでしまった方が有利である。
生き残る為には他人を出し抜かねばならない。
死亡枠が少ないからといって油断して良いわけではないのだ。
だからと言って俺の行動が完全に間違っていたわけでもない。
未知の環境における情報の価値は高い。命が掛かっている現状では尚更だ。
俺より後にパークに出現するプレイヤーも多数いる。
「それじゃ行くぞー」と横から声が上がる。
近くに居た集団のリーダーらしき人物が、空中を指でなぞっている。
恐らく管理画面を呼び出し、『ファミリー』登録を行っているのだろう。
煙と共に現れた扉を、ゾロゾロとメンバーらしき人々が通り抜け、最後のメンバーが扉の向こうに渡ると同時に扉は消えてしまった。
あれが『ファミリーハウス』というやつだろう。
他にも何組かが同じ様に扉を出現させては、消えて行く。
勧誘の流れから外れ、大の字に寝そべったり、己の身体機能を確かめるように体操やストレッチを行いながら、和やかに談笑しているプレイヤーもいる。
そのほとんどが、明らかに肉体を大幅に弄っている人々だ。
より速く、より高く、より強く、より美しく…現実を覆すVRの肉体。
彼らは生存よりも己の欲求を…VR世界の探求を優先したのだろう。
正直に言えば彼らが羨ましい。
理想の肉体を作って、このVR世界を堪能したい。
現実に絶望気味な俺一人の事ならば、その欲求に抗うことは無かっただろう。
しかし俺にはやるべきことがある。
ゲームを楽しむのは宿題が終ってからだ。
俺は管理画面を呼び出し、プレイヤーネーム検索を始めた。