第四章 羽田恵那
「お、織絵さん、織絵さんですか!」
「どしたの、恵那ちゃん?」
慌てて学校から飛び出し、全力で自転車を漕ぎながら塾に戻る途中、迷惑かもしれないと思いながらも五回程織絵さんに電話をかけ直し、六回目でやっと出た織絵さんは少し慌てていました。
「ごめんなさい。アルバイトだった?」
「うん、そだよ。初めは後でかけ直せば良いかなーと思ってたけど、あんまりいっぱいかかってくるから心配になってね。でもその声の調子だと身の危険が迫ってる系ではなさそうだね」
「ええ、心配をかけてしまって申し訳ないです」
織絵さんはコンビニエンスストアでアルバイトを行い、お小遣い程度の稼ぎを得ています。週に三回〜四回、お昼から夜の十時までの六時間くらい働くそうです。私もそのような経験をしてみたいのですが、お母さんが学生の本分は勉強だというので我慢しています。
「いいよ、お昼のお客さんが捌けて暇になった所だから気にしないで。で、あれだけいっぱいかけてきたんだからよほど重要なニュースを用意してるんでしょうね」
電話越しの織絵さんは文字にすればニシシとおどけた笑い声を上げています。
「あの、白井くんと出かける事になりました」
「…………はい?」
「だから、白井くんと出かけ――」
「聞こえてるっての!」
なぜか織絵さんは突然不機嫌になってしまいました。どこに地雷なる物が潜んでいたのか見当もつきません。
「どうして怒っているの?」
「ええ? 恵那ちゃんに怒ってないよ、あの腐れ宇宙人に対して怒ってるんだよ。あいつ女に興味なさげなのにちゃっかり手を出してるじゃない! 腹立つわー」
「それは私も思いました。異星人なのに少しおかしいですよね? 私に興味を持ったのでしょうか?」
「うっさい! 恵那もうっさい、声が浮ついてるよ。幸せそうでなによりだよ、じゃあそろそろ切るね。またバイト終わったらかけ直す」
「はい、わかりました」
「最後に聞かせて」
「はい?」
「どっちから誘ったの?」
「…………さあ? 覚えていません」
そう答えると織絵さんは何も言わず電話を切りました。ありえない答えだったので気を悪くさせてしまったのかもしれません。
けれど本当にわからないのです。
塾の昼休みを迎えお弁当を食べようと思っていたのに気が付くと学校の旧図書室で白井くんに会っていて、さらに宇宙博物館に行く約束までしてしまっていたのです。何が何やら当事者の私がわからないのですから織絵さんはさらに意味不明でしょう。
すべて無意識が行ったのでしょうか?
しかし無意識にそのようなことが可能でしょうか?
けれど、無の意識が行った事を意識がある状態の私が考えても、ヒントがない状態では正解を導くことは難しいでしょう。ならば今は、無意識の私に好きなようにさせておくのも一考かもしれません。なにせ実害はありません、それどころか幸福を運んできてくれるのですから。
楽をして白井くんに近づけるなんて、夢の様な話です。




