第五話 炎上しない戦い方
炎上は、
声の大きさで決まるものじゃない。
冷静さを失った方が、
必ず負ける。
――これは、
尚継が「職人」である前に、
「戦う当事者」になる回。
「……来てるな」
継はスマートフォンを伏せた。
盗作商品を扱っていたアカウントは、
すでにコメント欄を閉じている。
「逃げに入った」
健太が言う。
「ここからは、向こうが不利だ」
彩乃は、冷静に画面を確認していた。
「感情的な批判は無いわね」
「証拠が揃いすぎてる」
継は、投稿文を再確認する。
・制作過程の時系列
・下絵の写真
・工房の作業風景
・型紙の細部
感情的な言葉は、
一切使っていない。
《事実のみを提示します》
それだけだった。
⸻
「……強いな」
健太がぽつりと言う。
「喧嘩じゃないからです」
継は答えた。
「守るための行動なので」
⸻
その時。
工房の隅で、
静かに様子を見ていた男が口を開く。
隆司だった。
腕を組み、
スマホ画面を見つめている。
「なるほどな」
誰に言うでもなく呟いた。
「若いのに、
戦い方を知ってる」
健太が振り向く。
「隆司さん?」
隆司は笑った。
「昔な」
「職人は黙って腕で勝負だ」
「って時代があった」
少し間を置く。
「だがな」
継を見る。
「今は、腕だけじゃ守れない」
静かに頷いた。
「いいやり方だ」
⸻
数時間後。
盗作アカウントは
謝罪文を掲載し
商品を取り下げた。
だが、それだけではない。
彩乃がスマホを見て言う。
「見て」
仲村工房の公式アカウントに
新しい注文が入っていた。
一件、二件――
数字が増えていく。
「……増えてる」
健太が呟く。
継は画面を見ながら言った。
「信用は、積み重なるものです」
「でも」
少し笑う。
「一度、正しく守れたら」
「跳ね上がる」
健太と彩乃は顔を見合わせた。
この男は
ただの東京から来た若造じゃない。
⸻
沈黙。
隆司が、ふっと笑った。
「健太」
「彩乃」
二人を見る。
「分かるだろ」
健太が腕を組む。
「……ああ」
彩乃が小さく頷く。
健太が言った。
「合格だ」
「え?」
継が顔を上げる。
「仲間として、だ」
工房の空気が
少しだけ変わった。
⸻
その夜。
都内某所。
高層ビルの最上階。
男が夜景を見下ろしていた。
手元のタブレットには
仲村工房の記事。
《伝統工芸×SNS成功例》
男は小さく笑う。
「……いいね」
誰に向けるでもなく呟く。
「価値が、上がった」
その男の名を、
まだ誰も知らない。




