第四話 盗まれた“型”
持ち込めぬ怒り。
それは「壊される」という感覚に近かった。
伝統は、守る者が少なければ
いとも簡単に――盗まれる。
これは
仲村工房が
“現代の洗礼”を受けた日の記録。
異変は、静かに起きた。
「……売れてる、これ」
彩乃がスマートフォンを差し出した。
画面には、見覚えのある柄が映っている。
――いや、見覚えがあるどころではない。
「うちの、だよな?」
健太の声が低くなる。
継は、画面を一目で理解した。
(コピーだ)
そこにあったのは、
仲村工房がSNSに載せた紅型と、
ほぼ同一のデザインだった。
違うのは、値段だけ。
「……安すぎる」
彩乃が言った。
健太が歯を食いしばる。
「“量産”か」
継は、黙って頷いた。
「盗作です」
はっきりと言った。
工房の空気が、一気に重くなる。
その時だった。
奥の作業台から、椅子の軋む音がした。
隆司だった。
ゆっくりと立ち上がり、
三人の手元のスマートフォンを覗き込む。
画面の紅型を見ると、
しばらく何も言わなかった。
だが、その目は静かに細くなる。
「……なるほど」
低く呟いた。
「型だけ抜かれたな」
健太が顔を上げる。
「分かるのか?」
隆司は頷く。
「紅型はな」
布を指さす。
「線の呼吸がある」
スマホの画面を軽く叩いた。
「これは呼吸してない」
「ただ写しただけだ」
彩乃が小さく息を吐く。
「じゃあ、完全に盗作……」
「だろうな」
隆司は短く答えた。
怒鳴りもしない。
だが、その声は重かった。
健太が継を見る。
「どうする」
継は、静かに息を吐いたあと、答えた。
「正面から行きます」
「証拠を揃えて、公開します」
「業界も巻き込む?」
彩乃が聞く。
「いいえ」
継は首を振った。
「うちでやります」
健太が小さく笑う。
「ずいぶん強気だな」
隆司は、継を見た。
長い沈黙。
やがて言った。
「逃げるな」
それだけだった。
継が頷く。
「はい」
隆司は、作業台の紅型を一度だけ見た。
「型を盗まれても」
静かに言う。
「魂までは盗めん」
工房の奥で、
まだ乾ききらない紅型が揺れていた。
それは、
戦いの始まりだった。
※次話は「反撃編」に入ります。
※健太・彩乃の立場が少しずつ変わります。




