第二十話 炎上 ―守るものを選べ―
文化は、守れば叩かれる。
売れば、また叩かれる。
SNSは、
いつも正しいとは限らない。
だが——
そこには「声」がある。
そして今、
その声が、継に向けられていた。
沖縄。
仲村工房。
夜。
健太がスマホを見て固まっていた。
「……継」
継は振り返る。
「どうしました?」
健太は画面を見せた。
⸻
SNSの画面。
無数の投稿。
【#紅型隠蔽】
【文化を独占するな】
【仲村家は売る気がない】
【だったら国に寄贈しろ】
【文化泥棒】
⸻
継は黙って画面を見た。
彩乃が言う。
「……こんな」
ジョンが腕を組む。
「派手にやられてるな」
健太が言った。
「テレビでも流れた」
「林のインタビュー」
継はテレビを見る。
画面の中。
林明浩。
落ち着いた声。
「文化は共有されるべきです」
「一部の家に独占されるべきではありません」
スタジオが頷く。
キャスターが言う。
「確かに」
「展示しない理由は、
説明されていませんからね」
画面の下。
テロップ。
【紅型を隠す仲村家】
⸻
工房。
沈黙。
彩乃が言う。
「……ひどい」
ジョンが苦笑した。
「政治の基本だ」
「敵を悪者にする」
継は静かに言う。
「……なるほど」
健太が怒る。
「なるほどじゃないだろ!
これ全部嘘だぞ!」
継は少し笑った。
「嘘じゃないですよ」
三人が驚く。
継は言った。
「僕たちは、
確かに隠しています」
沈黙。
⸻
継は工房の奥へ歩く。
古い棚。
一冊のノート。
革の表紙。
そこには書かれている。
「美咲」
継は静かにページをめくる。
古い字。
丁寧な筆跡。
『もし、この紅型を見つけた人へ』
継の手が止まる。
『この紅型は、
すぐに世に出してはいけません』
継は小さく呟く。
「……やっぱり」
ページをめくる。
『紅型は美しい文化です』
『だからこそ、
人は必ずそれを利用します』
継の目が動く。
『政治』
『金』
『名誉』
ページの文字は続く。
『紅型は、
そのどれにも使われてはいけません』
継は静かに読む。
『だから私は、隠します』
次のページ。
⸻
『もし公開するなら』
継の呼吸が止まる。
『戦争当事者の声が小さくなった時』
⸻
工房。
継は目を閉じる。
彩乃が言う。
「……継?」
継は振り返る。
目は静かだった。
「理由がわかりました」
健太が聞く。
「何?」
継は答える。
「美咲さんは、守っていた」
一拍。
「紅型じゃない」
沈黙。
そして。
「沖縄の時間を」
ジョンが言う。
「……どういう意味だ」
継はノートを閉じる。
そして言った。
「林明浩は、
急ぎすぎている」
継は外を見る。
夜の海。
遠くで波の音。
「でも、美咲さんは違う」
静かに言う。
「待っていたんです」
そして、
継は決めたように言った。
「僕も待ちます」
健太が聞く。
「……何を?」
継は答えた。
「その日を」
外。
夜の海。
⸻
だがその頃。
東京。
高層ビル。
林明浩はSNSの画面を見ていた。
数万件の投稿。
炎上は広がっている。
林は笑った。
「いい流れだ」
隣で男が言う。
「世論は動きました」
林は頷く。
そして言った。
「次は」
窓の外。
東京の夜景。
「公開対談だ」
林の隣。
もう一人の男。
静かに立つ。
鷹宮アレク。
彼は言った。
「文化は、戦場になります」
林は笑う。
「ええ」
そして言った。
「だから面白い」
夜は、
まだ燃えていた。
⸻
――公開対談は、
もはや避けられない。
逃げ場はなかった。
⸻
(第二十話 了)




