第十九話 文化の値段 ―それは誰が決めるのか―
文化は
値段で決まるのか。
それとも
記憶で決まるのか。
世界は
まだ答えを知らない。
東京。
高層ビル。
林明浩のオフィス。
額縁。
一枚の写真。
紅型。
沖縄の海。
島々。
花。
そして
二つの旗。
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鷹宮アレクがそれを見ていた。
静かな目。彼は言った。
「美しい」
一拍。
「そして、高い」
林が笑う。
「いくらだ?」
鷹宮は答えた。
「市場に出れば」
「国家予算レベルです」
林はワインを飲む。
「面白い」
鷹宮は続ける。
「文化は二種類あります」
林が聞く。
「ほう、説明しろ」
鷹宮は言った。
「保存される文化。
流通する文化」
「これは、後者です」
林は笑った。
「つまり、金になる」
鷹宮は頷く。
「ええ、非常に」
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同じ頃。
国立博物館。
研究室。
継たちは机を囲んでいた。
御厨が資料を見ている。
チャンはノートを取っている。
彩乃が言う。
「文化人を集めるって、
具体的には?」
御厨は言った。
「学者、評論家、博物館、文化庁」
健太が聞く。
「そんな人たちが、
味方になります?」
御厨は静かに言う。
「するだろう」
一拍。
「ただし、敵もいる」
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チャンが言う。
「鷹宮アレク」
継が聞く。
「そんなに有名なんですか」
御厨は答える。
「国際キュレーター」
「世界の展示を動かす男だ」
彩乃が驚く。
「そんな人が、林側に?」
御厨は頷く。
「文化市場の人間だからな」
御厨は紅型を見る。
「彼の考え方は、単純だ」
継が聞く。
「どういう意味ですか」
御厨は言った。
「文化は、売るものだ」
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その時。
チャンがスマートフォンを見る。
「あ」
健太が聞く。
「どうした」
チャンは画面を見せる。
ニュース記事。
見出し。
【幻の紅型 発見か】
継の顔が固まる。
「……え?」
彩乃が言う。
「嘘」
記事には書かれていた。
「沖縄に眠る幻の紅型」
「世界的価値」
「所有者は非公開」
健太が言う。
「もう記事出てるぞ」
御厨の目が鋭くなる。
「林明浩だ」
御厨は言う。
「始まったな」
継が聞く。
「何がですか」
御厨は静かに言った。
「文化戦争だ」
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その夜。
テレビスタジオ。
インタビュー。
鷹宮アレクが座っている。
司会者が聞く。
「文化財の価値は?」
鷹宮は微笑む。
「市場です」
スタジオが少しざわつく。
鷹宮は続けた。
「価値は、人が決める」
一拍。
「そして、市場は世界です」
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沖縄。
仲村工房。
継がテレビを見ていた。
鷹宮の言葉。
「文化は、流通してこそ意味がある」
継の拳が握られる。
彩乃が言う。
「継」
継はテレビを見たまま言った。
「売らない」
一拍。
「絶対に」
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その頃。
東京。
林のオフィス。
テレビには
鷹宮のインタビュー。
林は笑った。
「いい宣伝だ」
鷹宮は言う。
「文化は、物語で売れる」
林が聞く。
「そして?」
鷹宮は答える。
「敵がいるほど、高くなる」
林はワインを回す。
「仲村継か」
鷹宮は微笑んだ。
「ええ」
一拍。
「最高の広告です」
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東京の夜。
沖縄の夜。
文化戦争は
静かに広がっていた。
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(第十九話 了)




