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Bingata Legacy 〜時と海を越える遺志〜  作者: ちま
第一部 尚継編 ― 未来に紡ぐ色 ―
22/32

第十八話 文化を守る者

文化は

誰のものなのか。


国か。

市場か。


それとも——

人か。

東京。


国立博物館。

朝。


広いエントランスに

静かな光が差し込んでいた。


継、彩乃、ジョン、健太。

四人は受付の前に立っていた。


彩乃が小さく言う。

「本当に会えるの?」


継は頷いた。

「多分」


健太が腕を組む。

「文化財法の権威だろ?

 そんな人が会ってくれるのか?」


継は言った。

「チャンさんが紹介してくれました」


ジョンが笑う。

「俺はFBIに呼ばれた時より緊張してる」


彩乃が吹き出した。



一人の女性が歩いてくる。


黒いスーツ。

落ち着いた雰囲気。


リン・チャンだった。

「来てくれたんですね」


継が頭を下げる。

「今日はありがとうございます」


チャンは言った。

「私ではありません」


一拍。


「紹介する人がいます」



研究棟。

静かな部屋。

本棚が壁一面に並んでいる。


中央の机に

一人の老人が座っていた。


白髪。

細い眼鏡。

静かな目。


チャンが言う。

「先生」


老人が顔を上げる。

「来たか」


チャンが紹介する。

「御厨先生」


「仲村継さんです」


老人はゆっくり頷いた。


御厨正道(みくりやまさみち)だった。


挿絵(By みてみん)


御厨は言う。

「話は聞いている。

 紅型の件だね?」


継が頭を下げる。

「はい」


彩乃が緊張している。

健太は静かに周囲を見ている。


御厨は言う。

「まず」


「作品を見せてくれ」



机の上。

紅型の写真。


沖縄の海。

島々。

花。


そして

二つの旗。


挿絵(By みてみん)


御厨はしばらく黙っていた。

長い沈黙。


彩乃が不安そうに言う。

「先生…?」


御厨は静かに言った。

「なるほど」


「これは、文化財だ」


部屋の空気が変わる。


健太が驚く。

「そんなにですか?」


御厨は答える。

「そんなにだ」


一拍。


「いや、それ以上だ」



御厨は椅子に深く座る。

「君は、これをどうするつもりだ?」


継は答える。

「展示したいと思っています」


「でも、今はできません」


御厨が聞く。

「なぜ?」


継は言う。

「林明浩です」


部屋が静かになる。


御厨の眉がわずかに動いた。

「なるほど」


御厨は紅型を見つめる。

「文化には、二つの敵がいる」


継が聞く。

「敵ですか?」


御厨は言った。

「無関心」


一拍。


「そして、政治だ」


ジョンが小さく笑う。

「林はどっちだ?」


御厨は答えた。

「両方だ」



御厨は継を見る。

「だが、君は間違っていない」


継は驚いた。

「本当ですか」


御厨は頷く。

「文化は」


「守る者がいなければ消える」


一拍。


「だが、守るだけでも消える」


継は言う。

「……どうすれば?」


御厨は静かに答えた。

「戦うしかない」


チャンが小さく笑う。

「先生はそう言うと思いました」


御厨は言う。

「林明浩は」


「文化を市場にする男だ」


一拍。


「だが、文化は

 市場だけでは生きられない」


御厨は紅型の写真を指差す。


「これは」


「歴史だ」


「記憶だ」


「沖縄そのものだ」



御厨は継を見る。

「仲村君」


「君は、覚悟はあるか?」


継は迷わなかった。

「あります」


御厨は頷いた。

「よろしい」


一拍。


「ならば、私も味方になろう」


彩乃が息を呑む。


健太が言う。

「マジか」


ジョンが笑う。

「戦力追加だ」



御厨は立ち上がる。

「だが」


「林は簡単な相手ではない」


挿絵(By みてみん)


「文化戦争になる」


継は言う。

「望むところです」


御厨は少し笑った。

「若いな」


御厨は言った。

「まず、文化人の味方を集めよう。

 君一人では戦えない」


継は頷く。

「はい」


御厨は続ける。

「そして」


「林明浩にも、

 文化人がいる」


空気が少し冷えた。


チャンが言う。

「国際キュレーター」


御厨が頷く。

「鷹宮アレク」


継が聞く。

「どんな人ですか」


御厨は静かに言った。

「文化を、金に変える男だ」



東京の夜。


高層ビル。

窓の向こう。


林明浩がワインを飲んでいる。


秘書が言う。

「御厨正道が動きました」


林は笑った。

「ほう」


一拍。


「文化戦争か」


林は言う。

「面白い」



挿絵(By みてみん)


同じ部屋。

もう一人の男。


黒いスーツ。

黒髪。

静かな目。


彼は紅型の写真を見ていた。


鷹宮(たかみや)アレクだった。

彼は言う。


「美しい」


一拍。


「そして、高い」


林が笑う。


夜の東京。


文化戦争は

始まったばかりだった。



(第十八話 了)


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#政治要素あり #国際要素あり #史実ベース #フィクション
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