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記録013|追想|沖縄:海風の墓前

1972年。


沖縄は、少しずつ変わり始めていた。

町も、景色も、人々の暮らしも。


しかし、変わらないものもあった。


それは、

長い時間が過ぎても、

ふとした瞬間に思い出す“誰か”。


これは、ある男たちの昔話。

そして、一人の男についての記録である。

1972年。沖縄。

 

空は高く、

海風は穏やかだった。


返還直後の町は、

どこか浮き足立っている。


新しい看板。

増え始めた観光客。

祝いの声。


だが、墓地だけは静かだった。



「……久しぶりだな」

 

男が一人、

墓前へ泡盛を置く。


続いて、また一人。

そしてまた一人。

 

五人の村男たちだった。

 

墓石には、こう刻まれている。


――仲村尚造之墓


挿絵(By みてみん)

 

「相変わらず、

 静かな場所好きだったよなぁ」

 

誰かが笑う。

 

「本人はうるさかったけどな」


「違いねぇ」

 

小さな笑いが起きる。

 

だが、長くは続かない。

皆、自然と墓を見てしまう。


そこにいるはずの男は、

もういない。


 

「……返ってきたな、沖縄」

 

年長の男が呟いた。

 

「長かったな」

 

誰かが、泡盛を口へ運ぶ。


風だけが吹いていた。

 

「尚造さんがいたら、何て言ったかな」

 

「“まだ終わってない”とか言いそうだな」

 

苦笑が漏れる。

 

あいつは、そういう男だった。

昔から、変なところばかり見ていた。

 

皆が目の前を見ている時――


尚造だけは、

別の何かを見ているようだった。



「……そういや」

 

一人が、ぽつりと言った。

 

「尚造さん、何で死んだんだ?」

 

空気が止まる。

 

誰も、すぐには答えなかった。

 

戦死。


そう聞いている。


だが――

 

「簡単に死ぬ男じゃなかったよな」

 

「まあな」

 

「あの尚造さんだぞ?」

 

笑うように言う。


だが、

その声には、

妙な確信が混じっていた。

 

「……強敵と戦ってた気がするんだよな」


挿絵(By みてみん)

 

誰かがそう言った。

 

反論は出なかった。


 

風が吹く。

 

遠くで、波の音が聞こえる。

 

「あいつ、

 最後まで何考えてたんだろうな」


答えはない。

墓石は、何も語らない。

 

だが――


五人とも、

なぜか同じことを思っていた。


仲村尚造は、

ただ戦場で死んだわけではない。

 

“何か”があった。



「……ま、今さら聞いても答えねぇか」

 

誰かが笑った。

 

「違いねぇ」


少しだけ、空気が軽くなる。


泡盛の瓶が回る。


昔話が始まる。


戦争の話。

港の話。

馬鹿話。


気づけば、皆笑っていた。


墓石の向こうで、

尚造も笑っている気がした。


 

夕日が、

静かに海へ沈んでいく。


時代は変わる。

沖縄も変わる。

人も老いる。


それでも、

消えないものがあった。


風の中で、

五人は静かに杯を掲げる。

 

「……また来るさ」


「尚造先生」


挿絵(By みてみん)

 

返事はない。


ただ、

海風だけが、

静かに吹いていた。



(つづく)

ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!


時代が変わっても、

人がいなくなっても。


ふとした瞬間に、

昔の誰かを思い出すことがあります。


それはきっと、

“記憶”ではなく、

どこかに残り続けているものなのかもしれません。



【第四部解禁イベントについて】


第四部の解禁受付は、

残り二日となりました。


もし続きが気になる方がいらっしゃいましたら、


・解禁希望コメント

・ブックマーク

・評価ポイント

・一気読み


など、どのような形でも

応援いただけると嬉しいです。


いただいた反応を参考に、

今後の公開について考えたいと思います。



そして次回。


舞台は1971年・東京。


一つの対談が終わった後、

誰にも公開されなかった会話が始まります。


そこにいるのは、三人の男たち。

彼らは、何を語ったのか。


物語は、

さらに静かに核心へ近づいていきます。

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