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Bingata Legacy 〜時と海を越える遺志〜  作者: ちま
第一部 尚継編 ― 未来に紡ぐ色 ―
20/40

第十六話 展示できない理由は、作品の外にある

舞台は東京へ。

国立博物館で、一人の学芸員と出会う。


文化は守られる。

しかし、真実を語るには覚悟がいる。


ここから物語は、

「文化」と「政治」の境界へ踏み込む。

挿絵(By みてみん)


東京。

国立博物館。


巨大な石段の前で、

継は足を止めた。


健太が空を見上げる。

「……でけえ」


彩乃が苦笑する。

「国立だよ?」


ジョンは建物を見回す。

「アメリカのスミソニアンみたいだな」


健太

「ジョン、お前ヒマなの?」


ジョン

「ヒマじゃない。

 横田で会議だ。

 その前に寄っただけだ」


継は静かに言った。

「行きましょう」


四人は館内へ入った。



館内は驚くほど静かだった。


観光客のざわめきの向こうで、

ここだけ空気が違う。


受付の奥から

一人の女性が歩いてくる。


黒いジャケット。

腕にはタブレット。

落ち着いた目。


女性は軽く会釈した。

「お待たせしました」


挿絵(By みてみん)


「リン・チャンです」


継が名乗る。

「仲村継です」


健太、彩乃、ジョンも挨拶する。


チャンは一瞬だけジョンを見る。

「米軍関係者?」


ジョンは笑う。

「まあ、そんなところ」


チャンはそれ以上は聞かなかった。

「こちらへどうぞ」



応接室。


机の上に

一枚の写真が置かれる。


紅型。

沖縄本島。


そして——

二つの旗。


彩乃が小さく言う。

「……これ」


チャンは写真を手に取った。

しばらく黙って見ている。


特に

端の“余白”を。


継が説明する。

「1945年に制作された紅型地図です」


チャンは頷いた。

「沖縄戦の年ですね」


そして静かに言った。

「私は沖縄文化史を研究しています」


健太が少し驚く。

「沖縄?」


チャンは頷く。

「琉球王国から現代まで」


「沖縄の文化と政治の関係を

 研究しています」


一拍。


「だから、この作品はよく分かります」


チャンは写真を机に置いた。

「これは」


「ただの工芸品ではありません」



チャンはタブレットを操作する。

画面に文字が出た。


在日米軍。

地位協定。

基地。


チャンが言う。


「1945年」


「沖縄は米軍統治下に置かれました」


画面が変わる。


1972年。

日本復帰。


「しかし」


チャンは続ける。


「すべてが元に戻ったわけではありません」


ジョンが腕を組む。

「基地か」


チャンは頷いた。

「現在も」


「在日米軍基地の約7割が

 沖縄に集中しています」


彩乃が呟く。

「そんなに……」


挿絵(By みてみん)


チャンは静かに言う。

「この紅型は文化です」


一拍。


「ですが」


「同時に政治です」


部屋の空気が変わる。



チャンは言った。

「展示希望ですか?」


継は頷く。

「はい」


チャンは少し考えた。

そして言った。


「正直に言います」


「展示は難しいです」


健太が言う。

「保存の問題?」


チャンは首を振る。

「違います」


「責任です」


一拍。


「この作品を展示すれば」


「博物館は一つの立場を

 取ったことになります」


彩乃が言う。

「でも……」


「歴史ですよね?」


チャンは静かに答える。

「はい」


「だから難しいんです」



沈黙。

チャンは資料を閉じた。


「展示できないのではありません」


一拍。


「"展示していい責任者"がいないだけです」


継は言葉を失った。


逃げるという選択肢だけは

もう消えていた。



博物館の廊下。


帰り際、チャンが継を呼び止めた。

「一つ、個人的な意見を」


継が振り向く。


チャンは言った。

「私は沖縄の研究者です」


「ですが、

 沖縄の人間ではありません」


一拍。


「だから見えることがあります」


継は黙る。

チャンは続けた。


「この作品は、

 沈黙していません」


「語ろうとしている」


そして言った。


「問題は、

 誰がそれを語るかです」



継は深く息を吐いた。

「……俺たちです」


チャンは小さく笑った。

「そう言うと思いました」



博物館を出る。


夕方。

東京の空。


健太が言う。

「で、どうする?」


継は答える。

「展示します」


彩乃が驚く。

「できるの?」


継は言う。

「分かりません」


一拍。


「でも、やります」


ジョンが笑った。

「いいね」


「久しぶりに面白くなってきた」



その頃。


東京。

高層ビル。


林明浩は

静かに資料を見ていた。


秘書が言う。

「仲村工房の紅型ですが」


「国立博物館に相談があったようです」


林は少しだけ興味を示す。

「博物館?」


秘書が頷く。

「はい」


林は資料を閉じた。

そして言った。


「文化か」


窓の外。

東京の夜景。


林は静かに笑った。


「面白い」



(第十六話 了)


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