第十五話 嵐の前
文化は、弱い。
だが、消えない。
沖縄。
仲村工房。
いつも通りの朝だった。
潮の匂い。
染料の匂い。
布の乾く音。
だが、
工房の空気は
少しだけ違った。
健太が言う。
「で、昨日の被害者の会だけど」
継は苦笑する。
「正式名称じゃないですよ」
彩乃が言う。
「でも、みんな本気だった」
健太が腕を組む。
「そりゃそうだ」
「相手が林明浩だ」
沈黙。
継は紅型を見る。
青い海。
沖縄の島々。
花。
そして――
二つの旗。
彩乃が言う。
「林、また来るかな」
継は即答した。
「来ます」
健太が笑う。
「断言だな」
継は頷く。
「彼は」
「欲しいものは
必ず手に入れる人です」
沈黙。
健太が言う。
「じゃあ、戦争だな」
継は首を振る。
「違います」
「これは、交渉です」
健太
「相手が林でも?」
継
「だからです」
彩乃が聞く。
「勝てる?」
継は少し考える。そして言う。
「分かりません」
健太が笑う。
「正直でよろしい」
継は言う。
「でも」
「守るものは決まっています」
継は紅型を指差す。
「これです」
沈黙。
⸻
工房の外。
波の音。
そのとき、
扉が開いた。
「おはよう」
ジョンだった。
健太
「早いな」
ジョンはコーヒーを持っている。
「眠れなかった」
彩乃
「なんで?」
ジョンは言う。
「林が動いた」
沈黙。
継
「もう?」
ジョンは頷く。
「昨日、東京で」
「投資ファンドが一つ消えた」
健太
「は?」
ジョン
「林が買った」
彩乃
「何それ」
ジョンは言う。
「ウォーミングアップ」
沈黙。
継は静かに言う。
「なるほど」
健太
「なるほどじゃない」
ジョンは言う。
「安心しろ」
「林は、まだ本気じゃない」
彩乃
「本気だったら?」
ジョン
「沖縄ごと買う」
沈黙。
健太
「笑えねえ」
⸻
継は言う。
「ジョンさん、お願いがあります」
ジョン
「聞こう」
継
「博物館です」
ジョンは眉を上げる。
「博物館?」
継
「この紅型」
「展示します」
沈黙。
彩乃
「え」
健太
「正気か?」
継は頷く。
「隠しても、林は来ます」
「なら」
「世界に見せます」
沈黙。
ジョンが笑う。
「いいな」
「面白くなってきた」
⸻
東京。
夜。
高層ビル。
林明浩は、静かに言った。
「展示?」
秘書が答える。
「はい」
林は笑う。
「なるほど、文化か」
窓の外。
東京の夜景。
林は言った。
「では」
「政治にしよう」
夜は
まだ終わらなかった。
⸻
(第十五話 了)




