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Bingata Legacy 〜時と海を越える遺志〜  作者: ちま
第一部 尚継編 ― 未来に紡ぐ色 ―
15/22

第十一話 金の匂い

敵は、まだ何もしていない。

それでも、世界は少しだけ動き始めていた。

仲村工房。

 

朝。


潮の匂いと、

染料の匂い。


そして今日は――


もう一つ。


妙な空気が漂っていた。



作業台の上。


一枚の名刺が置かれている。


林明浩(リン・ミンハオ)

 林グループ CEO』


健太が腕を組む。

「……やばい匂いしかしないな」


彩乃も頷いた。

「企業規模、桁違い」


継は静かに言う。

「調べました」


ノートPCを回す。


挿絵(By みてみん)


画面には

林グループの情報。


IT。

物流。

アパレル。

投資ファンド。


そして――

世界中の拠点。


健太が眉をひそめる。

「企業っていうより、

 国家じゃねえか」


彩乃が続ける。

「しかも沖縄進出してる」


継は小さく頷く。

「はい」



沈黙。


工房の外では、

観光客が歩いている。


平和な朝。


だが、

作業台の空気は重かった。


健太が言う。

「で、何で紅型なんだ?」


継は少し考える。

「分かりません」


彩乃が言う。

「でも、

 林は“日米地位協定”を指定した」


沈黙。


三人の視線が、

倉庫の奥へ向く。


そこには

布がある。


尚造の紅型。



健太が頭を掻く。

「……文化ビジネスか?」


彩乃が首を振る。

「それなら普通は買収」


継が言う。

「林は、買うと言いました」


健太

「同じじゃねえか」


彩乃

「違う」


彩乃は静かに言う。

「買収は会社。

 買うのは作品」


沈黙。


継が言う。

「文化を買う」


健太

「……怖い言い方するな」



その時、

電話が鳴った。


彩乃が出た。

「はい、仲村工房です」


一瞬。

表情が変わる。


「……え?」


継と健太が見る。

彩乃は電話を切った。


沈黙。


健太

「どうした」


彩乃

「百貨店」


「はい?」


彩乃

「紅型の取り扱い、

 一度見直すって」


沈黙。


健太

「……早すぎないか?」


継も頷く。


林が来たのは昨日だ。


彩乃が小さく言う。

「金の匂い」


「……え?」


彩乃

「お金が動くと、

 世界はすぐ動く」


健太

「嫌な世界だな」



継は少し黙る。

そして言う。


「……隆司さんなら」


健太

「何?」


「こういう話、知ってるかも」


彩乃

「世界回ってたって言ってたよね」


健太

「でも」


少しだけ間。


「もう聞けねえだろ」


隆司は

工房を去った。


継は静かに言う。

「昔、こんな話してました」



回想。


夜の工房。

隆司が酒を飲んでいる。


隆司

「上海にはな、

 化け物みたいな商人がいた」


若い継

「化け物?」


隆司

林玉蘭(リン・ユーラン)


挿絵(By みてみん)


「林?」


隆司は笑う。

「商売ってのはな、銃より強い」


挿絵(By みてみん)



現在。


沈黙。


彩乃

「……林?」


健太

「偶然か?」


継は名刺を見る。


『林明浩』


「……分かりません」


健太

「でも、偶然じゃなかったら?」


沈黙。


工房の奥。

倉庫。

そこにある布。


日米地位協定。



健太が言う。

「……なあ。

 これ、もしかして」


彩乃

「うん」


「……はい」


健太

「世界が欲しがるやつ?」


誰も答えない。



外。


風が吹く。

紅型が揺れる。


仲村工房。

まだ小さな工房。


だが――


世界の匂いが、

近づいていた。



(第十一話 了)

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#政治要素あり #国際要素あり #史実ベース #フィクション
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