第九話 警告
※作者より
本作は特定の思想・国家・個人を
批判する目的の作品ではありません。
夜。
仲村工房。
いつもの作業台。
だが今日は、
健太も
彩乃も
継も
全員がそこにいた。
美咲が呼んだからだ。
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隆司が腕を組んでいる。
いつもの軽い顔ではない。
少しだけ、真剣だった。
「今日はな」
隆司が言う。
「一つ、終わらせる」
継が首を傾げる。
「終わらせる?」
美咲が頷いた。
「うん。私たちの仕事」
沈黙。
健太が聞く。
「……何の話ですか」
美咲は答えない。
代わりに、
奥の棚へ向かった。
鍵を取り出す。
小さな箱。
その中から、
一枚の布を取り出した。
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それは、
継が見たことのある紅型だった。
第八話で見た、あの布。
美咲が言う。
「これが、仲村家の仕事」
布を広げる。
紅型。
波。
花。
そして――
沖縄本島。
彩乃が息を止めた。
「……地図」
健太も言葉を失う。
継は、
ただ見ていた。
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だが、
もう一つ描かれていた。
日本国旗。
そして
アメリカ国旗。
沈黙。
隆司が言う。
「意味、分かるか」
誰も答えない。
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美咲が言う。
「1945年」
「沖縄戦の年」
継の背筋が凍る。
「この紅型は、
その年に作られた」
健太が言う。
「……誰が」
美咲は静かに答えた。
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「仲村尚造」
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その名前を聞いた瞬間、
隆司と美咲の表情が、
わずかに変わった。
部屋の空気が変わる。
その名前を、
継は知らない。
だが、なぜか、
重さは分かった。
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隆司が言う。
「俺の上司で、兄貴だ」
継が顔を上げる。
「え?」
美咲が続ける。
「そして、私の父」
「天才だった」
「そして」
「戦争の中で」
「ある紅型を作った」
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継は、
布を見つめる。
沖縄本島。
波。
花。
だが、
よく見ると、
ただの装飾ではない。
線。
点。
配置。
まるで、
作戦図のようだった。
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「……」
継は言葉を失う。
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隆司が言う。
「気づいたか」
「それ」
「ただの紅型じゃない」
美咲が言う。
「これは」
一呼吸。
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「警告」
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彩乃が聞く。
「警告……?」
美咲は頷く。
「戦争の」
「未来への」
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沈黙。
⸻
継は、
もう一度
紅型を見る。
日本。
アメリカ。
沖縄。
そして
布の裏に
書かれていた文字に
気づいた。
「……」
継は、
それを声に出して読んだ。
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「日米地位協定」
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健太が言う。
「は?」
彩乃も言う。
「……何それ」
隆司は笑わなかった。
ただ、
静かに言った。
「その名前が」
「この紅型のタイトルだ」
沈黙。
継の背中に、
冷たい汗が流れる。
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紅型。
地図。
日本。
アメリカ。
そして、その名前。
"日米地位協定"
隆司が言う。
「今日で終わりだ」
「俺たちの仕事は」
美咲が継を見る。
「後は」
「あなたたちの仕事」
健太。
彩乃。
継。
三人が、
紅型を見つめる。
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それは、
美しい布だった。
だが。
その中には、
戦争が描かれていた。
誰も、
まだ知らない。
だが――
この紅型は、
すでに誰かに見つかっていた。
⸻
(第九話 了)
※作者より
ここまで読んでいただき、
ありがとうございます。
この回から、
物語は少しだけ
重たいテーマに触れていきます。
本作は、
特定の思想や立場を
主張するための作品ではありません。
沖縄の歴史、
そしてそこに生きた人々の記憶を、
「物語」として描いていく作品です。
ただし、
在日米軍や国際関係といった題材が
苦手な方もいらっしゃると思います。
もし途中で
「少し違うかも」と感じた場合は、
どうか無理をせず、
ここで物語を閉じてください。
それでも、
この先を読んでくださる方へ。
この物語は、
誰かを責めるためではなく、
忘れられた声に
耳を澄ますために書いています。
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。




