表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
外伝・尚造夫婦編 ― あたたかい日々 ―
126/147

最終話 止められなかった日常

1944年。


戦争は、もう遠くない。


気づけばそれは、

生活の中に入り込んでいた。


家族がいて、

明日の予定があっても――

止めることはできない。


これは、

備えていたはずの人々が、

それでも守れなかった

日常の記録である。

1944年。


それは、いつの間にか

逃げ道がなくなっていた年だった。


仲村家の庭には、

重たい空気が、

はっきりと居座っていた。


尚造の出征。


挿絵(By みてみん)


家族全員が理解していた――

これが最後になるかもしれない、

ということを。


尚造は穏やかな笑顔で、

父・隆造、母・尚綾、

そして妻・文を、順に見回した。


尚造

「行ってきます」


誰もが、それ以上の言葉を飲み込んだ。

それが正しい別れ方だと、信じたかった。



……数週間後。


戦争準備が進む中、

仲村家の戸が、がらりと開いた。


尚造

「……ただいま!」


挿絵(By みてみん)


一同

「?????」


隆造、思考停止。


隆造

「……尚造?」


尚造(元気)

「一時帰宅だよ!」


隆造は一瞬、安堵しかけてから、

その後ろに見える軍装と書類を見て、悟った。


隆造(心の声)

(これは“嵐の前触れ”だ……)



尚造、戦時中とは思えない報告①


尚造(キラキラ笑顔)

「父さん!」


「僕が作った紅型タオルがね」


「掘削作業員の皆さんの間で大人気なんだ!」


隆造

「……は?」


尚造

「汗を拭くと元気が出るって」


「……そういう声が、多かったんだ」


一拍。


「だから工房で、増産してほしい」


隆造は、何も言えず天を仰いだ。



尚造、戦時中とは思えない報告②


尚造が、そっと近づく。


「母さん」


「首里城の地図を描いているんだ」


「地下の隠し通路を、教えてほしい」


尚綾は一瞬、表情を引き締め、

そして静かに床へ膝をついた。


「……これが、地下の隠し通路よ」


挿絵(By みてみん)


指で描かれる、

夜でも迷わぬ道。


尚綾

「暗くても、焦らなくていい。

 夜の道でも……戻りなさい」


尚造

「うん。ありがとう、母さん」


隆造は横で、

拳を握りしめることしかできなかった。



夜・寝室にて


家族が寝静まった後。


文は布団を整えながら、

背後に尚造の気配を感じて振り返った。


尚造

「文」


「はい」


尚造(少し照れて)

「……今晩は、甘えたいな」


文は、一瞬言葉を失った。


文(心の声)

(戦時中で、夜襲が来るかもしれないのに……)


(この人は、本当に何を考えているのかしら?)


……だが。


尚造の表情は、

これから向かう場所を、

想像しきれていない人の目だった。


文は静かに近づき、尚造の手を取る。


「……少しだけですよ」


挿絵(By みてみん)


尚造は、

子どものように安心した顔で微笑んだ。



この夜、

文は何も問いたださなかった。


明日が来るか分からない時代に、

「今ここにいる」という事実だけを、

二人は抱きしめた。


尚造は、

家族への愛情を手放さないまま、

時代の中へ踏み出していった。



尚造夫婦編・完

ここまで読んでくださり、

本当にありがとうございます。


尚造と文。

この二人の時間は、戦いの中にあっても、

確かに“日常”として存在していました。


笑ったり、

すれ違ったり、

それでも、同じ場所に戻ろうとする。


そんな当たり前のことが、

どれほど尊いのか。


この物語を書きながら、

何度も考えさせられました。


読者の皆さまが、

少しでも温かく感じてくださっていたなら、

それ以上に嬉しいことはありません。



そして、次の物語へ。


舞台は再び、

あの村へ戻ります。


次章――外伝「村男編」。


兵学校。

訓練。

そして、戦場。


彼らは“兵士”として戦い、

やがて“人間”として帰ってきます。


ですが――


帰る場所は、

出発したときと同じではありません。


戦場を知った者が、日常へ戻るとき。

何が残り、何が変わってしまうのか。


これは、

「戦う物語」ではなく、

「生きて帰る物語」です。



どうか、彼らの帰る先を、

最後まで見届けていただければ幸いです。


引き続き、

『Bingata Legacy』をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ