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Bingata Legacy 〜時と海を越える遺志〜  作者: ちま
第一部 尚継編 ― 未来に紡ぐ色 ―
12/21

第八話 後継者指名

「継ぐ」という言葉は、

技術のことだけを指すわけではない。


人も。

家も。

そして――


時には、

歴史そのものも継ぐことになる。

夜。

 

仲村工房は静まり返っていた。


昼間のにぎやかさが嘘のように、

今は風の音しか聞こえない。


継は作業台の前に座っていた。


染料の匂い。

乾きかけた布。


今日も、

紅型の型紙を手に取る。


「……」


少しだけ、手が止まった。


昼間のことを思い出していた。


養子。

仲村家。


そして、家族。

まだ実感がない。


だが――

嫌ではなかった。


むしろ。


胸の奥が、

静かに温かい。



「継」


声がした。


振り向くと、

美咲が立っていた。


「まだ起きてたんですね」


継が言う。


美咲は小さく笑った。


「あなたが残ってると思って」



「ちょっと来て」


そう言って、

工房の奥へ歩く。


継は立ち上がり、

後を追った。



工房の奥。


普段は使われていない小部屋。


棚には、

古い布や道具が並んでいる。


その中央に、

一枚の布が置かれていた。


白い布。

まだ何も描かれていない。


「これ」


美咲が言う。


「見て」



継は布を広げる。


そこには、


一枚の紅型があった。


波。

雲。

花。


沖縄の自然が、

静かに広がっている。


だが、

どこか違う。


継はすぐに気づいた。

「……これ、

 普通の紅型じゃない」



美咲は頷いた。

「そう。これはね」


少しだけ間を置く。


「1945年に作られた紅型」


挿絵(By みてみん)


継の手が止まった。


「1945……」


頭の中で、

ある言葉が浮かぶ。


沖縄戦。



「でも」


継は言う。


「こんな型、見たことないです」


「当然」


美咲は答えた。


「これは売り物じゃない。

 誰にも見せない紅型だから」



継は紅型を見つめる。


波の模様。


その中に、

小さな線があった。


まるで、

地図のような。


「……?」


違和感。


だが、

まだ意味が分からない。



美咲は静かに言う。


「継」


「今日から、

 あなたを後継者にします」


挿絵(By みてみん)


継は顔を上げた。


「……え?」


「技術だけじゃない」


「工房も」


「家も」


「全部」


「あなたに継いでもらう」



継は言葉を失った。


「でも……」


「まだ」


「僕は――」



「いいの」


美咲は言う。


「決めたのは私」


そして、

少しだけ笑った。


「あなたはもう、

 仲村家だから」



沈黙。


継はゆっくり頭を下げた。


「……分かりました」


「やります」



その時。


風が吹いた。


工房の窓が、

小さく鳴る。


紅型の布が、

わずかに揺れた。



その模様を、

継はもう一度見る。


波。

花。


そして――


小さく描かれた、

見慣れない線。


「……これ」


思わず呟く。


「地図みたいですね」



美咲の目が、

一瞬だけ揺れた。


だが、

何も言わない。


「気のせいよ」


そう言って、

布を畳んだ。



その夜。


継はまだ知らない。


この紅型が、

ただの布ではないことを。


そして。


この布が、

世界の歴史と

繋がっていることも。



(第八話 了)


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#政治要素あり #国際要素あり #史実ベース #フィクション
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