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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第二部 隆造編後編 ― 時代に裂かれる布 ―
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第四十話 その夜、布は六つに分かれた

戦争は終わった。

だが、戦争の痕跡は、

まだ動いている――


一枚の布が、

世界を揺さぶる力を持つことを、

誰が知っていただろうか。

隆造は、

東京・吉田の執務室から戻ると、

紅型を慎重に広げた。

 

その布――

「日米地位協定」紅型は"未完成"だった。


"未完成"の意味を、隆造は熟知していた。


「吉田様……」


「この布は、六つに分けさせていただきます」


挿絵(By みてみん)


吉田はうなずきながら、低く言った。


「CIAの手が及ぶかもしれぬ」


「扱いには細心の注意を払え」


隆造は黙って頷き、

布に刃を入れた。


一瞬だけ、手が止まる。


それでも――

切った。


その音は、やけに大きく響いた。


縫い目や歪みを調整しながら、

心の中で呟く。


「……これは未来の希望だ」


「誰にも壊させぬ」


ひとつひとつ分割した布片は、

特別な布袋で包まれた。


外では、吉田のSPが警戒している。


米国の目は厳しい。


吉田は息をひそめながら、指示を出した。


「君たち」


「隆造君を護衛してくれ」


SPはうなずき、目を鋭く光らせる。


挿絵(By みてみん)



夜明け前。


東京湾。


霧の中に、

一隻の輸送船が静かに浮かんでいた。


隆造は、

布袋を抱えたまま乗り込む。


SPの一人が低く言う。


「この船は記録に残らん」


「港にも寄らない」


隆造はうなずいた。


それで十分だった。



一方――

米軍臨時司令部。


薄暗い室内で、

通信兵が報告を上げる。


「東京湾付近、

 未登録の小型輸送船を確認」


地図の上に、

一本の航路が引かれる。


将校は無言でそれを見つめた。


「……誰の船だ」


返答はない。


だが、全員が理解していた。


“何かが動いている”



船内。


エンジンの低い振動だけが響く。


隆造は布袋を開き、

中を一度だけ確かめる。


五つの布。


どれも、同じ重さを持っていた。


(……未来だ)


すぐに袋を閉じる。


外では、波が静かに砕けていた。



数時間後。


海上。


双眼鏡を構えた米兵が、

遠くの影を捉える。


「……目標、視認」


無線が入る。


「接触するな」


「監視を続けろ」


米兵は、わずかに眉をひそめた。


(拿捕しない……?)


だが命令は絶対だった。


その船は、“見送られた”。



夕刻。


沖縄近海。


水平線の向こうに、

見慣れた島影が浮かぶ。


隆造は、静かに目を細めた。


(戻ってきた)


だが――

もう以前の沖縄ではない。



夜。


離島。


四人の友人たちは、

既に出迎えに来ていた。


彼らは、布の歪みに気づく。


「……隆造、これって…」


隆造は静かに言った。


「何も知らなくていい」


「君たちは守るだけだ」


友人たちは黙って頷き、

重い責任を背負ったことを自覚する。


夜の海風が船上を撫で、

月明かりが紅型の輪郭を薄く照らした。


「この布は……

 世界の均衡を握る」


隆造の胸に、尚造の言葉が蘇る。


ーー父さん。


ーー紅型は形ある武器です。

  正しく使わねばならないです。


船が島影に差し掛かると、

隆造は慎重に布袋を渡した。


挿絵(By みてみん)


「これで、君たちの手に託す」


「沖縄を、そして尚造の遺志を守れ」


四人の友人たちは、

黙って紅型を受け取る。


隆造は最後にひとつ、

自分の胸に抱きしめた。


挿絵(By みてみん)


「……そして、儂は戻る」


彼の目は、遠く東京を思い、

そして家族を思っていた。


紅型は六つに分かれたが、

力はまだ一つだった。


見えぬ糸が、

これからの未来を繋いでいる――



その夜、隆造は知る。


この布を巡る戦いは、

まだ始まったばかりだと。



(つづく)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


「未完成の紅型」が六つに分けられ、

それぞれが“未来”として動き出しました。


ひとつの作品だったものが、

守るために分断される――


それは同時に、

誰かの手に渡り、

誰かの運命を変えていくことを意味します。


そして隆造は、

そのすべてを背負ったまま、沖縄へ戻ります。



次回――


ようやく描かれるのは、

戦いの外で、

ずっと待ち続けていた人たちの時間です。

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