第七話 家族団欒(ただし常連客がうるさい)
仲村家に、
新しい家族が加わった。
だが――
家族になったからといって、
静かな日常が続くとは限らない。
むしろ。
少しだけ、騒がしくなる。
仲村家の夜。
畳の部屋に、食卓が並んでいた。
紅型の布が敷かれた低い机。
その上には、
・ゴーヤーチャンプルー
・ラフテー
・島豆腐
・泡盛
隆司が腕を組む。
「今日は祝いだ」
継は慌てた。
「い、祝いですか?」
「養子祝い」
あっさり言う。
美咲が笑った。
「隆司、急すぎ」
「いいんだよ」
隆司は泡盛を注ぐ。
「こういうのは勢いだ」
⸻
継は少し照れながら頭を下げた。
「……よろしくお願いします」
美咲が微笑む。
「こちらこそ。家族だからね」
その言葉に、
継は少しだけ安心した顔になる。
⸻
その時。
玄関のチャイムが鳴った。
隆司が顔を上げる。
「お、来たか」
継が首を傾げる。
「来た?」
隆司は立ち上がる。
「常連だ」
⸻
玄関。
扉が開く。
そこに立っていたのは――
外国人の男だった。
背が高い。
ラフな私服。
だが姿勢が妙に良い。
男は軽く頭を下げる。
「こんばんは」
完璧な日本語だった。
継は思わず言った。
「日本語お上手ですね!」
男は笑った。
「ありがとうございます。
一応、沖縄生活が長いので」
隆司が笑う。
「こいつ、日本人より日本語うまいぞ」
⸻
男は名乗った。
「ジョン・スティーブンスです」
継は軽く頭を下げる。
「仲村継です」
⸻
その時。
彩乃が小声で言った。
「ねえ。この人」
健太が小声で答える。
「ああ。たぶんそうだ」
継は首を傾げる。
「?」
⸻
食卓。
ジョンは料理を見て目を輝かせた。
「ゴーヤーチャンプルー。
最高ですね」
隆司が笑う。
「分かるか」
「大好物です」
⸻
その時。
ジョンがふと壁を見る。
そこには紅型が飾られていた。
波の模様。
沖縄の海。
ジョンは静かに言った。
「……美しい」
その目は、
職人を見る目ではなく、
パイロットが地形を見る目だった。
隆司が聞く。
「空はどうだ?」
ジョンは少し笑う。
「今日は風がいい」
健太がニヤッとする。
「高度?」
ジョンも笑う。
「三万フィート」
隆司が肩をすくめる。
「空はいいな。
陸は歩くしかない」
ジョンは少し真面目な顔になる。
「だから尊敬してます。
私は燃料が無いと帰れません」
健太が笑う。
「歩兵は燃料いらねえからな」
隆司
「海は?」
ジョン
「もっと揺れます」
健太
「海軍は船酔いとの戦いだな」
彩乃が呆れる。
「また始まった」
継は完全に置いていかれていた。
「?」
隆司が継を見る。
「こいつな、
パイロットなんだ」
ジョンは肩をすくめる。
「ただの操縦士です」
健太が小声で言う。
「ただのじゃねえ」
⸻
その時。
ジョンが継を見る。
「あなたが継さんですか。
SNSの投稿、見ました」
継が驚く。
「え?見てくれたんですか?」
「はい」
ジョンは言った。
「いい仕事です。非常に」
継は少し照れる。
「ありがとうございます」
ジョンは続ける。
「ただ」
一拍。
「売れた瞬間、世界は変わります」
継は少し驚いた。
「……え?」
隆司が笑う。
「こいつはな、
そういう世界の人間なんだ」
⸻
その時。
美咲が湯呑みを置く。
「隆司。飲みすぎ」
隆司は笑う。
「祝いだからいい」
⸻
継はふと聞いた。
「ところで、ジョンさん」
ジョンが顔を上げる。
「はい」
継は聞いた。
「飛行機って、
そんなに面白いんですか?」
一瞬の沈黙。
ジョンは静かに答えた。
「ええ」
少し笑う。
「空は、嘘をつきません」
健太が言う。
「職人と同じだな」
ジョンが頷く。
「たしかに」
⸻
その夜。
仲村家は久しぶりに、
にぎやかな食卓になった。
そして。
その笑い声の中で、
まだ誰も気づいていなかった。
この家が、
これから
どれほど大きな出来事に
巻き込まれていくのかを。
⸻
(第七話 了)




