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Bingata Legacy 〜時と海を越える遺志〜  作者: ちま
第一部 尚継編 ― 未来に紡ぐ色 ―
10/25

第六話 養子縁組

仲村工房は、小さな工房だ。


だがこの日、

一人の若者の人生を変える話が、

静かに決まろうとしていた。


それは、

大きな出来事ではない。


けれど、

この物語にとっては――

とても大きな一歩だった。

工房の空気は、

少しずつ変わり始めていた。


誰も言葉にはしないが、

継のことを、

職人として見始めている。


健太も、

彩乃も。


そして――


美咲も。



その日の作業が終わり、

工房に静かな時間が戻る。


染料の匂い。

乾きかけた布。


夕方の光が、

作業台の上に落ちていた。


「継」


美咲が呼ぶ。


「ちょっといい?」


継は顔を上げた。


「はい」



奥の小さな座敷。


そこには、

隆司もいた。


いつものように、

湯呑みを持っている。


「座って」


美咲が言う。


継は、

少し緊張しながら座った。



少し沈黙。


そして。


美咲が言った。


「継」


「あなた、東京の家には戻るの?」


継は、少しだけ考えた。


「……いえ」


静かに答える。


「戻るつもりはありません」


隆司が、

小さく頷く。



「そう」


美咲は湯呑みを置いた。


「じゃあ、聞くね」


一呼吸。


「仲村家に来る?」


継は、

言葉の意味をすぐ理解できなかった。


「……え?」



隆司が言う。


「養子だよ」


あっさりと。


「戸籍の話」


継は固まった。


「……え」


「いや」


「え?」


美咲が笑う。


「そんな顔すると思った」


美咲が立ち上がり、

座敷の壁をちらりと見る。


そこには、

古い家族写真が飾られていた。


挿絵(By みてみん)



「別に、

 今すぐ答えなくてもいい」


隆司が言う。


「ただな」


少しだけ真面目な声になる。


「工房を継ぐってのは」


「仕事だけの話じゃない」


「家の話でもある」



沈黙。


継は、

膝の上の手を握った。


「……僕で、いいんですか」


思わず出た言葉だった。



隆司が笑う。


「健太と彩乃に聞いてみろ」


「もう半分、

 家族みたいな顔してる」


美咲も頷いた。


「うん」


「最初から、そう思ってた」



継は、

しばらく黙っていた。


そして。


深く頭を下げる。


「……お願いします」


「仲村家に、

 入れてください」



沈黙。


隆司が、

ゆっくり立ち上がる。


「よし」


「決まりだな」


あまりにも軽い声だった。



美咲が笑う。


「そんな簡単に?」


「いいんだよ」


隆司は言う。


「こういうのはな」


「早い方がいい」



そして継を見る。


「今日からだ」


「仲村継」


挿絵(By みてみん)


その言葉に、

継は少しだけ戸惑った。


でも。


どこか、

安心した顔だった。



工房の外。


夕焼け。


風に揺れる紅型。


仲村家に、

新しい家族が増えた。



だが。


そのことを、

まだ誰も知らない。


この家が、


どれほど"大きな歴史"と、

向き合うことになるのかを。



(第六話 了)


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#政治要素あり #国際要素あり #史実ベース #フィクション
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