第21話 記録される
【現在:ユウスケ・フジオカ Lv12】
王都アルトレの朝は、静かだった。
高い城壁。
整えられた石畳。
騎士団の巡回が、規則正しく街を巡っている。
――だが、その内側で、
空気は確実に変わっていた。
(……戦場より、重いな)
ユウスケは、城郭内の会議棟へ向かう回廊を歩いていた。
隣には、セリス。
鎧は着けていない。
だが、背筋は崩れていない。
「……この後の話し合い」
セリスが、低く言う。
「剣より、言葉が飛びます」
「分かってる」
ユウスケは、歩調を緩めない。
「だから、
事実だけを置いてくる」
◇
会議室。
長い楕円卓の向こうに、王国の要人たちが並んでいた。
騎士団上層。
文官。
魔導研究院の代表。
そして――
冒険者ギルドの代表。
「……では、始めよう」
議長役の老騎士が、低く告げる。
「旧王国前線砦跡における、
帝国の不法活動について」
空気が、引き締まった。
セリスが一歩前に出る。
「王国近衛騎士団、セリス・ヴァルティア」
簡潔な敬礼。
「当該拠点にて、
帝国魔導研究官ドクター・ヴァルガスを確保」
「人員実験、
違法魔導装置、
実験記録の一部を押収しました」
資料が、卓上に配られる。
魔法陣の設計図。
被検体リスト。
供給経路の断片。
会議室に、ざわめきが広がった。
「……これは」
「人を……」
「帝国が、ここまで……」
議長が、ユウスケを見る。
「冒険者ユウスケ・フジオカ」
「あなたの見解を」
ユウスケは、立ち上がった。
余計な修辞は使わない。
「帝国は、
“勝てる戦争”の準備をしていました」
一拍。
「英雄を作るのではなく、
量産できる兵器を作るために」
魔導研究院の代表が、眉をひそめる。
「再現性を、重視した……?」
「はい」
ユウスケは、淡々と続ける。
「個の強さを否定し、
統計で上書きする思想です」
空気が、冷えた。
「……つまり」
文官の一人が、低く言う。
「帝国は、
人間を“資源”として扱っている」
「その通りです」
ユウスケは、肯定した。
◇
議長が、重く息を吐いた。
「……王国としては、
公式に抗議を行う」
だが、続ける。
「同時に、
事態の公表には慎重を要する」
視線が、集まる。
「民心への影響が大きすぎる」
セリスの拳が、わずかに握られた。
ユウスケは、静かに言った。
「隠せば、
同じことが繰り返されます」
一拍。
「見せるべきは、
“恐怖”ではなく、
事実です」
会議室が、静まり返る。
議長は、しばらく考え込み、
やがて頷いた。
「……段階的に、公開する」
「記録として残し、
監視体制を強化する」
決定だ。
◇
会議が終わり、回廊を歩く。
外の光が、やけに眩しかった。
「……政治は、
一撃では動きませんね」
セリスが、静かに言う。
「だから、
戦場が先に動く」
ユウスケは、即答した。
「政治は、
後から追いつく」
セリスは、その言葉を胸に刻むように頷いた。
◇
城門を出る直前。
ユウスケは、
ふと足を止めた。
(……また、だ)
音でも、視線でもない。
数値に出ない違和感。
〈真理解析〉を、
ごく浅く走らせる。
――反応、なし。
(……記録を、
見ているな)
誰かが、
この会議の“意味”を測っている。
だが、姿は見えない。
ユウスケは、追わなかった。
◇
王都の外。
街道に出たところで、
セリスが言った。
「……これから、どうされますか」
「当分は、
冒険者だ」
ユウスケは、答えた。
「だが――」
一拍。
「目を逸らす気はない」
帝国は止まらない。
世界も、止まらない。
そして、
潮の流れは、確かに変わった。
次に動くのは、
海の向こうか。
迷宮の奥か。
あるいは――
魔王領か。
王都は、背後で静かに遠ざかっていった。




