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第98話 ドラゴス出陣

 海上は混沌としていた。

 帝国艦隊の砲撃と、強制された人魚の苦痛の歌。

 それに対抗するようにセレナと仲間たちの旋律が重なり合い、海を二分するほどの共鳴が続いていた。


 その時――。


「ふん……随分とやってくれる」


 低く響く声が、戦場全体を震わせた。

 旗艦の甲板に、一人の巨躯が姿を現した。

 漆黒の軍服に金の肩章、そして背に負った大剣。

 海の覇者――帝国提督ドラゴス。


 彼が一歩踏み出すたびに、甲板が軋み、兵士たちが思わず身を引く。

 鋭い眼光は鷲のように鋭く、ただ見下ろすだけで海そのものが威圧に震えるようだった。


「異端の歌で俺の艦隊に挑むか。愚か者どもが」


 旗艦の船首に立つと、彼はゆっくりと剣を抜いた。

 海獣の骨から鍛えられたとされるその大剣は、刃から黒い霧を立ち昇らせていた。


「俺が覇するは海そのもの。お前たちの歌も、波も――全て俺の軍靴の下に沈めてやろう」


 ドラゴスが剣を掲げると、旗艦の甲板に魔法陣が展開される。

 次の瞬間、海底を震わせる轟音が響いた。


「――《深淵砲撃アビス・キャノン》!」


 艦首から放たれた漆黒の砲撃が、海そのものを裂き、巨大な渦潮を生み出した。

 水柱が天を衝き、近くの人魚戦士たちが流れに呑まれていく。


「うわああああっ!」

「くっ……これが提督の力……!」


 セレナが顔を青ざめさせ、必死に歌で潮流を整えようとする。

「止めないと……! このままじゃ里が……!」


 カイは波間に立ち、翼を広げた。

「ついに出てきやがったな……ドラゴス!」


 紅と蒼の瞳が炎を灯し、拳に力が集まる。

 全面決戦――真の戦いの幕が、いま切って落とされた。

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