第97話 帝国の猛攻
海上を覆う帝国艦隊が、ついに本格的に動き出した。
十隻を超えるガレー船が陣形を組み、艦首から魔導大弩が次々と火を吹く。
炎を宿した矢が雨のように降り注ぎ、海を爆ぜさせた。
「くっ……っ!」
カイが翼で仲間を庇い、爆風に耐える。
「まだだ! 押し返せ!」
オルドが戦鎚を振り抜き、迫る矢を砕いた。
だが、その時――海を震わせるような歌声が響いた。
それはセレナたちの歌とは違う、耳を裂くような旋律。
低く、軋み、呻くような声。
無理やり喉を絞り出された歌は、痛みと恐怖に濁り、聞く者の胸を締めつける。
「……あれは……!」
フィオナが顔を上げ、険しい表情を浮かべる。
「帝国に囚われた人魚たちの歌……! 強制的に魔力を搾り取られているのよ!」
その旋律は波を荒れ狂わせ、敵兵の体を攻撃的に強化していた。
炎を纏った矢はさらに鋭さを増し、帝国兵の槍が青白い光を帯びて突き出される。
セレナは顔を歪め、震える声で叫んだ。
「やめて……その歌は……苦痛の叫び……!」
同胞の悲痛な声に重なるように、彼女は胸に手を当てた。
「なら……私が……重ねる!」
深海の澄んだ旋律が響き始める。
セレナの歌に応じ、サメ人魚の低音、クラゲ人魚の幻惑の調べ、タコ人魚のリズム、カニ人魚の重厚な声が水を伝い、次々と重なっていく。
苦痛の旋律に、希望の合唱がぶつかり合う。
海は二つの歌に揺さぶられ、荒れ狂う波の中で力と力がせめぎ合った。
「うおおおおおッ!」
カイが拳を振り抜き、紅と蒼の衝撃波で敵の矢を弾き返す。
「仲間を苦しめる歌なんかに……負けるもんか!」
その叫びと共に、歌と拳が共鳴し、海原を震わせた。




