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第93話 帝国の動き

 港町アルディナ。

 夕暮れの港に、再び帝国の軍船が集結し始めていた。

 海を覆う帆の列は、港全体を巨大な影で包み込む。


「……人魚を奪われたと?」

 低く響く声が、甲板に立つ兵士たちの背筋を凍らせる。


 帝国海軍本部直属――提督直属艦隊の旗艦。

 そこに立っていたのは、海軍の覇者と恐れられる男、帝国提督ドラゴス。


 漆黒の軍服に身を包み、肩には黄金の肩章。

 鋭い鷲のような眼光は、波をも裂く威圧を放っていた。

 背に携えた大剣は、海獣の骨で鍛えられたと噂される代物。


「は、はい……!」

 膝をついた副官が必死に言葉を紡ぐ。

「“解放者”と呼ばれる連中が現れ、人魚の女を救い出しました……!」


 報告に、ドラゴスの口元がゆがんだ。

「……解放者、か」

 低く唸り声を上げると、その瞳には憎悪と好奇心が入り混じった光が宿った。


「面白い。奴らもまた“異端”に過ぎん。ならば海に沈めるのみよ」


 彼はゆっくりと剣を引き抜き、甲板に突き立てる。

 轟音のような音が鳴り響き、兵たちが一斉に身を震わせた。


「全艦、準備せよ!」

「はっ!」


 港全体が慌ただしく動き始める。

 砲門が開かれ、鎖に繋がれた人魚奴隷たちが無理やり引き出される。

 その歌声は悲痛に満ちていたが、帝国兵は鞭を振るい、強制的に歌を響かせる。


 ドラゴスはその光景を見下ろし、冷笑した。

「歌は海を支配する。だが本当の覇者は人ではない――力を持つ帝国だ」


 夕陽に照らされた港は、嵐の前のような不気味な静けさを帯びていた。

 やがて波は荒れ始める。

 それは、帝国提督ドラゴスが本格的に動き出した証だった。

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