第91話 セレナの決意
隠れ里の広間が静まり返っていた。
帝国提督ドラゴスの名が語られたことで、人魚たちの顔に影が差す。
誰もが彼の残虐さを知っていた。
そんな中、セレナはゆっくりと立ち上がった。
尾びれが水面を揺らし、青白い光が鱗に反射する。
「……私は、もう逃げません」
その声に、仲間たちが振り向く。
「セレナ?」
カイが問いかけると、彼女は真っ直ぐに彼の瞳を見据えた。
「あなたたちに助けられて……私は初めて、歌が“誰かを守るためにある”と知りました。
帝国に奪われた歌を……今度は私が取り戻す番です」
彼女は胸に手を当て、はっきりと告げた。
「カイさん、フィオナさん、オルドさん……どうか私を仲間にしてください。
私は……人魚族の歌で、あなたたちと共に戦います!」
フィオナはその瞳をじっと見つめ、静かに頷いた。
「……あなたの声には力がある。怯えさえしなければ、きっと仲間を守れる」
オルドは豪快に笑い、戦鎚を掲げた。
「気に入った! 臆せず前に出る奴は嫌いじゃねぇ。歌で俺たちを鼓舞してみせろ!」
そしてカイは拳を握りしめ、力強く応えた。
「もちろんだ。俺たちの仲間になってくれ、セレナ。
一緒にドラゴスを倒して、みんなを自由にしよう!」
その瞬間、セレナの深海の瞳に涙が滲み、微笑みが浮かんだ。
「はい……誓います。必ず、歌でみんなを支えます」
広間に集まった人魚たちは静まり返り、やがて小さな拍手が広がった。
それは希望の響き。
失われかけた歌が、今、再び未来を紡ぎ始めたのだった。




