第9話 火鎖の猛威
灼熱の牢獄の中で、タルフ侯の笑い声が響き渡った。
「クハハハハハッ! 燃えろ燃えろォ! 奴隷も財産も、この世のすべては我が掌の中よォ!」
炎の甲冑を纏った侯爵の手が振り下ろされるたび、赤黒い鎖が空間を奔り、石壁を砕きながら蛇のように襲いかかる。
「――《焔鎖牢獄》ッ!!」
轟音と共に、十重二十重の鎖がカイとアリシアを包囲した。
熱風で視界が揺らぎ、肌が焼ける。
「くっ……!」
アリシアは呪剣を振るい、迫る鎖を斬り払う。
だが切断してもすぐに炎で再生し、数は減らない。
「このままじゃ……!」
カイの拳も鎖を砕くが、熱と痛みに動きが鈍る。
侯爵はさらに魔法陣を重ねた。
紅蓮の鎖が燃え盛り、今度は天井へ突き上がる。
「――《財産消却》ッ!!」
天井を突き破った炎が逆巻き、火柱となって降り注いだ。
熱波が押し寄せ、逃げ場は完全に塞がれる。
「ぐああああッ!」
カイは吹き飛ばされ、石床に叩きつけられた。
皮膚が焼け、呼吸すら苦しい。
「カイ!」
アリシアが駆け寄る。だが彼女自身も鎖に絡め取られ、動きが止まった。
「見ろ……! これが“財産を弄ぶ愚か者”の末路よ! 貴様らの命は、私の炎に焼かれて価値となるッ!」
侯爵の目は狂気に爛々と輝き、両腕を広げた。
炎の鎖が再び渦を巻き、巨大な火柱となって二人を呑み込もうと迫る。
「オレは……まだ……負けないッ!」
血まみれのカイが拳を握りしめる。
胸の魔法陣が再び脈動し、赤と蒼の光が激しく点滅した。




