第84話 セレナ登場
港町アルディナの広場。
帝国兵が見張る檻舟の中に、ひときわ目を引く存在がいた。
透き通るような水色の髪に、サンゴのような赤が混じる美しいグラデーション。
深海を思わせる群青の瞳は光を受けてエメラルドのように輝き、尾びれは紅と蒼が溶け合うような光彩を放っている。
その姿は、まさにサンゴ礁の海が生んだ精霊のようだった。
だが、その手足には重い鎖が巻き付けられ、声を奪う魔封じの首輪が嵌められていた。
帝国兵がその姿を見世物にし、笑い声を上げる。
「こいつは上物だ。歌声を取り戻せば、軍船を沈める兵器になる」
「だが今は鎖で黙らせるのが一番だ。反抗心を折るには時間がかかるがな」
その言葉に、カイの拳が震えた。
「……ふざけるな。歌は兵器なんかじゃない……!」
フィオナも怒りを抑えきれずに杖を握りしめる。
「彼女のような存在こそ、海の象徴。鎖につなぐなど……」
その時、セレナがゆっくりと顔を上げた。
長い睫毛の奥から、悲しみと、それでも消えない強さを秘めた瞳がカイたちを捉える。
そして、かすかに唇が動いた。
声は首輪に封じられて届かない。
それでも――彼女の口の動きは、確かに「助けて」と訴えていた。
カイは一歩、檻に近づこうとした。
だが帝国兵が槍を突きつけ、怒鳴り声を上げる。
「何をしている! 下がれ! ここは帝国領だ!」
人垣の中で足を止めたカイ。
拳に血がにじむほど力を込めながら、彼は決意を固めた。
(必ず助ける……この鎖も、この首輪も、全部砕いてやる!)
――こうして解放者の一行と、セレナ・ナガ=ラグーンの邂逅は果たされた。
海底の詠い手を巡る物語が、今、動き出そうとしていた。




