第8話 侯爵の絶叫
炎の巨獣が灰と化した瞬間、地下は静寂に包まれた。
しかし次の刹那、その沈黙を破るように、タルフ侯の咆哮が轟く。
「貴様らァァァァァァァァァッ!!」
侯爵の肥え太った体が赤黒く膨張し、全身を炎の甲冑が覆う。
瞳は血走り、口から火を吐くように息を漏らす。
それはもはや人間の姿ではなく、炎そのものが人型を象った怪物だった。
「我が財産を、研究を、実験を、踏みにじるか……! 価値のない命に、価値ある富が汚されてたまるかァァッ!」
侯爵の周囲に赤黒い魔法陣が連なり、鎖と火柱が渦を巻く。
「――《財産消却》ッ!!」
轟音と共に地下全域が炎に包まれた。
壁も床も溶け落ち、奴隷たちの悲鳴が遠く響く。
熱波に押され、カイとアリシアは後方へ吹き飛ばされた。
「くっ……このままじゃ、全部焼き尽くされる……!」
アリシアが歯を食いしばる。
だがカイは震える拳を握り直し、炎の中で立ち上がった。
小さな背に、確かな意志が宿っていた。
「オレは……あんたみたいな人間には、負けないッ!」
胸の魔法陣が再び脈動する。
紅と蒼の光が強く瞬き、暴風が地下に吹き荒れた。
「――《暴走解放》ッ!!」
その瞬間、炎の奔流と暴走の力が激突する。
灼熱と暴風がぶつかり合い、石壁が次々崩れ落ちる。
「ハハハハハハァッ! 素晴らしいぞ、小僧ォ! その力ごと、我が財産にしてやるッ!」
侯爵は狂笑し、燃え盛る鎖を振りかざす。
カイとアリシアは背を合わせ、敵を睨みつけた。




