第78話 夜明けの誓い
夜が明け、鍛冶街には静けさが戻っていた。
戦いの余韻を残す瓦礫と焦げ跡の中にも、炉の煙が立ち昇り、槌音が響いている。
――街は生き延びたのだ。
だが、カイの身体は満身創痍だった。
《混血顕現》を二重に解放した反動は重く、立ち上がるどころか寝台から起き上がるのも苦しかった。
「無理は禁物よ」
フィオナが椅子に腰かけ、彼の額に冷えた布を当てる。
その横顔は優しさと不安を入り混ぜたものだった。
「分かってる……でも、止まるわけにはいかない」
カイはかすかな笑みを浮かべ、紅と蒼の瞳を細めた。
「ディランのためにも……俺はまだ進む」
その時、ウンディーネ族の代表が静かに歩み出た。
長い水色の髪を揺らし、その瞳には深い憂いが宿っている。
「……カイ殿。お願いがございます」
場の空気が張り詰める。
代表は胸に手を当て、深々と頭を垂れた。
「帝国が……海にまで手を伸ばしました。
彼らは“人魚狩り”を行い、我らの同胞である人魚族を捕らえては奴隷として売り払っているのです」
「帝国が……!」
オルドが眉をひそめ、拳を握る。
フィオナも目を伏せ、唇を強く噛んだ。
「はい。彼らは人魚の歌を武器と恐れ、鎖で封じ込めている。
無理やり沈黙させられた者たちは、今も帝国の港で苦しんでいます。
私たちだけでは抗えません……どうか、あなたの拳で鎖を断ち切っていただきたい」
カイはしばし沈黙した。
全身が痛みで震えていたが、その瞳は揺らがなかった。
「帝国が……奴隷を広げるなら……俺たちが止める。
もう誰も、歌を奪われ、鎖につながれることは許さない」
その言葉に代表は涙を浮かべ、深く頷いた。
フィオナは安堵の微笑みを浮かべ、オルドは戦鎚を肩に担いで声をあげた。
「よし……次は帝国の番だな」
こうして解放者の一行は新たな誓いを胸に刻んだ。




