第77話 祝宴の炎
鍛冶街の大広間。
巨大な炉の火が赤々と燃え、壁に掛けられた松明と共に場を照らしていた。
長机の上には山盛りの肉料理と、大樽の酒。
戦いに勝利した民たちが集い、声を枯らして歓喜を歌い上げていた。
「カイに! 解放者に! 乾杯だッ!」
オルドが樽を片手で掲げ、豪快に叫ぶ。
大広間に「乾杯!」の声が響き渡り、杯と杯が打ち合わされた。
カイはその輪の中で、未だ立ち上がれずにいた。
布で巻かれた両拳は赤く腫れ上がり、背中の痛みはまだ残っている。
それでも、多くの種族が次々に彼の元を訪れた。
「お前の拳がなければ、この街は消えていた」
シルフ族の長老が杯を差し出し、深々と頭を下げる。
「水の民も、お前に借りができたな」
ウンディーネ族の娘が笑みを浮かべ、カイの手を両手で包んだ。
トレント族の巨木戦士は大地のような声で言った。
「お前の心は、大樹の根よりも強い」
次々と届く言葉に、カイは頬を赤らめながら答える。
「……俺は……ただ、仲間を守りたかっただけなんだ」
その隣で、フィオナが穏やかに微笑む。
「でも、その想いが皆を救ったのよ」
彼女の声は柔らかく、しかしどこか誇らしげだった。
やがて、ドワーフたちが大声で歌い出し、子供たちが輪になって踊り始める。
笑い声、歌声、槌音のような拍手。
その全てが「生き延びた」という実感を街に広げていった。
オルドが豪快に笑い、樽を抱えてどんと机に置いた。
「よし! 今日は飲み明かせ! この勝利を炉の火と共に刻むんだ!」
カイは満身創痍の体で、それでも小さく拳を掲げた。
「……次は……もっと強くなる。誰も……死なせない」
その小さな声も、祝宴の炎に照らされ、確かに仲間たちの胸に届いていた。




