第76話 戦後の静寂
夜空を覆っていた炎が消え、鍛冶街には久方ぶりの静寂が訪れた。
黒煙はまだ立ち昇っていたが、もはやそれは脅威ではなく、戦いが終わったことを告げる狼煙に過ぎなかった。
「勝ったぞォォォ!」
城壁の上からドワーフ兵が雄叫びを上げる。
槌を天に掲げる者、涙を流して抱き合う者――歓喜と安堵の声が街全体に広がった。
だが、その中心にいるカイは膝をつき、立ち上がることすらできなかった。
《混血顕現》の二重解放の代償はあまりに大きく、全身は焼けるような痛みに苛まれ、視界は揺れていた。
「カイ!」
フィオナが駆け寄り、その肩を抱く。
冷たい夜風の中でも、彼の体は灼熱のように熱かった。
「……大丈夫だ……生きてる」
カイはかすかに笑みを浮かべたが、力は尽き果てていた。
オルドが戦鎚を地に突き立て、低く唸る。
「若造……よくやった。お前がいなければ、この街は燃え尽きていた」
その言葉に、周囲の者たちも次々と集まる。
シルフ族の風使いが膝をつき、言葉を絞り出す。
「……お前の拳が、風よりも速く絶望を切り裂いた」
ウンディーネ族の娘が涙を流しながら頷く。
「あなたがいなければ、私たちは……」
トレント族の巨木戦士が、低い声で呟いた。
「お前の決意は、大樹の根より強かった」
非難の声を浴びせていた種族たちが、今は心からの感謝と敬意を向けていた。
「……俺はただ、仲間を守りたかっただけだ」
カイは途切れ途切れに言葉を紡ぎ、力なく笑った。
「ディランのためにも……もう誰も死なせないって……」
その声に、フィオナは胸が締めつけられる思いで彼を抱きしめた。
「もう十分よ……あなたは、みんなを守ったわ」
歓声と涙に包まれる中、夜空には満月が顔を覗かせていた。




