第75話 最後の一撃
天を突く炎柱が鍛冶街を呑み込もうとしていた。
赤黒い火焔が渦を巻き、空を裂く。
それは魔力の爆発ではない――憎悪と狂信の炎そのものだった。
「すべて灰に還れぇぇぇッ!」
マクシミリアンが叫び、炎は一層激しく膨れ上がる。
城壁の上から、民の悲鳴が夜を切り裂いた。
「……来るぞ……」
フィオナは蒼白な顔で杖を握りしめる。
「防ぎきれない……! あの規模は……」
「なら俺が行く!」
カイが翼を広げ、紅と蒼の光を拳に集める。
だが――それだけでは足りないと直感していた。
血が沸騰するように熱を帯び、全身を裂くような痛みが走る。
「混ざり合え……俺のすべて……もう一度だ……!」
再び紅と蒼、翠と黒の光が迸る。
通常の《混血顕現》にさらに重ねる、命を削る力の発動。
「――《混血顕現・二重解放》ッ!!」
背から伸びる漆黒の翼が炎を巻き散らし、両拳には紋様が灼熱のように浮かぶ。
だが同時に、血が喉から滲み、視界が霞んだ。
体は悲鳴を上げている――もう長くは持たない。
「これで終わりにする……!」
翼を広げ、炎の渦へ突っ込む。
マクシミリアンが狂気に咆哮する。
「馬鹿な小僧ォォォ! その身ごと焼き尽くしてやる!」
「焼かれるもんか……俺は砕く!」
紅と蒼の拳が《煉獄葬炎》を貫き、爆光と轟音が戦場を呑み込む。
炎は裂け、マクシミリアンの胸甲が砕け散る。
「ば、かな……この炎が……!」
断末魔と共に、将軍の肉体は炎に溶けて消滅した。
――静寂。
炎の渦は散り散りに消え、鍛冶街の夜空に風が吹き抜ける。
歓声が広がるが、その中心でカイは膝をついていた。
「はぁ……っ……」
全身の血管が焼けるように痛み、立ち上がろうとしても足が動かない。
翼は崩れ落ち、紅と蒼の光も消えていく。
「カイ!」
フィオナが駆け寄り、肩を抱きとめる。
「……大丈夫だ……俺は……生きてる」
かすかな笑みを浮かべながらも、膝は力を失い、今にも倒れそうだった。
オルドが戦鎚を肩に担ぎ、低く唸る。
「無茶しやがって……だが、よくやった」
カイはうなずき、消えゆく意識の中で空を見上げた。
「……ディラン……みんな……守れたよ……」
満身創痍の解放者は、仲間に支えられながら、静かにその場に身を預けた。




