第7話 炎獄の牙を砕け
炎の巨犬が三体。
地下実験室は熱気で煮えたぎり、石壁が赤く輝いていた。
息を吸うだけで喉が焼ける。
「クハハハ! どうした奴隷ども! 財産に逆らえば、こうなるのだ!」
タルフ侯は高笑いしながら魔法陣を操る。炎の巨獣たちは獄炎を吐き、逃げ場を消した。
「カイ、今のままじゃ勝てない……」
アリシアの頬に汗と血が流れる。
「けど――」
「やれる! 一緒なら!」
カイは拳を握り、叫んだ。
二人は背を合わせ、同時に地を蹴る。
巨犬の一体が咆哮と共に牙を突き立てる――
「――《暴走解放》ッ!」
カイの拳が紅と蒼に光り、巨犬の牙を真正面から迎え撃つ。
砕けた牙の破片が火花と共に飛び散り、巨体が怯む。
「今よッ!」
アリシアの呪印が輝き、短剣が血煙を纏う。
「――《血契呪剣》!」
赤黒い斬撃が怯んだ巨犬の首を裂いた。
炎の巨体が悲鳴を上げ、燃え尽きるように崩れ落ちる。
「残り二体……!」
カイは肩で息をしながらも、瞳をぎらつかせた。
残る巨犬たちが同時に咆哮。
灼熱の息吹が左右から迫る。
「カイ!」
「わかってる!」
二人は互いの目を見て頷いた。
――力を合わせることを、もう恐れていなかった。
カイの拳が炎を切り裂き、アリシアの刃が鎖を断ち切る。
息を合わせた攻撃が次々と巨犬を穿ち、最後の一体が爆ぜるように消滅した。
「な、馬鹿な……我が《炎獄魔獣》が……!」
侯爵の顔から笑みが消え、憤怒が露わになる。
「俺たちは……負けない!」
幼い声が、地下を震わせる。
カイとアリシア――ふたりの力が、ついにひとつになった。




