第59話 灰を越えて
灰に覆われた森は、死んだように静まり返っていた。
かつて緑に満ちていた木々は黒く炭化し、風が吹くたびに灰が舞い上がる。
その中を、カイたち一行は歩みを進めていた。
彼らと共に歩くのは、精霊の集落から生き延びたエルフ族の一団。
長老の娘と数人の若者が加わり、フィオナの傍らに寄り添うように進んでいた。
「……あなたがいたから、生き残れました」
娘は深く頭を下げ、フィオナの手を握った。
フィオナは一瞬戸惑ったが、やがて微笑んで応える。
「私だけじゃない。仲間がいたから、ここまで来られたの」
そのやり取りを見たカイは拳を握りしめる。
ディランを失った痛みはまだ癒えない。だが、彼の犠牲によって救われた命がここにある。
――絶対に無駄にはしない。
やがて進路は山岳地帯へと差し掛かる。
険しい岩肌が連なり、遠くには白煙を噴き上げる山が見えた。
その麓にあるのが、オルドの故郷――ドワーフの鍛冶街だ。
「ここからは岩と炎の大地だ。気を抜くなよ」
オルドが前に立ち、険しい山道を睨む。
その声は重く響いたが、どこか懐かしさを含んでいた。
一行が進み始めたその時――。
焼け焦げた森の奥。
黒い灰の中に、赤い光がちらついた。
焼けただれた大地の上に、血と炎に塗れた人影がうごめく。
「……まだ……だ……」
声は低く、途切れ途切れだった。
異端狩り将軍――マクシミリアン。
満身創痍の彼は、禁呪によってなお命を繋ぎ、狂気の光をその目に宿していた。
「異端……必ず……浄化する……」
その呟きは、灰の森に不気味に木霊していた。




