第58話 旅立ちの支度
森を覆っていた炎は消え、残ったのは黒く焼け焦げた大地と、立ち込める灰の匂いだった。
その一角に、仲間たちは小さな墓を築いていた。
狼耳を持つ若き戦士――ディラン。
彼のために掘られた穴に、仲間たちは涙と共に石を積み上げた。
母親は子供の手を握り、老人は静かに祈りを捧げている。
カイは最後に墓前に膝をつき、低く呟いた。
「……必ず守るよ、ディラン。もう誰も失わない」
拳を握りしめ、立ち上がったその背に、ハルドが歩み寄った。
魚鱗族の青年は深い海のような瞳で、仲間たちを見回す。
「……俺はここで別れる」
その言葉に、皆が驚いて顔を上げる。
「どういう意味だ、ハルド」
カイが問いただすと、彼は静かに答えた。
「今回の戦いを見ただろう。これからも同じような死地が待っている。
俺たち奴隷上がりの者たちには、ついていく力がない。……足手まといになるだけだ」
苦い言葉だったが、その声は揺るがなかった。
守るべき仲間たちのための選択。
フィオナは唇を噛みしめたが、やがて頷いた。
「……ありがとう、ハルド。あなたがいたから、みんなここまで来られた」
ハルドはわずかに微笑み、奴隷たちを率いて森の奥へと歩み去った。
彼の背中が消えるまで、カイは拳を強く握り締めていた。
残されたのは――カイ、フィオナ、そしてオルド。
オルドは炎に焼けただれた大槌を見下ろし、低く唸る。
「このままでは戦えん。俺の故郷――ドワーフの鍛冶街へ行くしかない」
「ドワーフ鍛冶街……?」
カイが聞き返すと、オルドは頷いた。
「精霊鉄も神秘の鉱石も、すべてが揃う場所だ。
俺の仲間ならば、壊れた武器を打ち直すことができる」
フィオナが杖を握り、静かに微笑んだ。
「行きましょう、カイ。私たちの力を整えるために」
カイは二人を見回し、力強く頷いた。
「よし……次の目的地は、ドワーフ鍛冶街だ!」
灰の森を背に、三人の新たな旅が始まった。




