第56話 混血顕現
緑と赤の光が交錯し、燃え盛る森を覆っていた火柱が切り裂かれた。
フィオナの《森羅裁断》が空を覆い、オルドの《隕鉄流星》が大地を砕く。
二つの力が重なり合い、絶望の檻に風の裂け目を作り出す。
「……やった……!」
奴隷たちが歓声を上げかけたその時――。
「くだらんな」
マクシミリアンが冷酷に笑った。
彼の大槍から再び炎が噴き出し、今度は集落の片隅に隠れていた獣人族の子供に狙いを定める。
「まずはその子供を焚べよう。異端の種は早いうちに消すべきだ」
「やめろぉぉッ!」
カイが飛び出そうとするが――。
「任せろ!」
ディランが先に駆けた。
狼人族の俊敏さを生かし、子供を庇うように飛び込む。
だが、マクシミリアンの炎の槍は容赦なく彼を貫いた。
「ぐっ……はぁっ……!」
ディランの胸から血が溢れ、体が崩れ落ちる。
必死に子供を押しやりながら、振り返ってカイに叫んだ。
「カイ! 大丈夫だ……だから……奴を倒せ!」
その言葉に、カイの心が張り裂けた。
アリシアを失った痛みが蘇る。
また、大切な仲間を失おうとしている――。
「もう……二度と……仲間を死なせはしないッ!!」
紅と蒼の瞳が灼熱に燃え上がる。
全身の血が逆流するように沸騰し、混じり合う四種の血が覚醒を告げる。
「――《混血顕現》ッ!!」
カイの体から紅と蒼、翠と黒の光が迸る。
筋肉が隆起し、背からは鳥人の羽が閃き、巨人の力が拳に宿る。
その姿は人の域を超えた「混血の戦鬼」だった。
「なに……!?」
マクシミリアンが初めて顔色を変える。
次の瞬間、カイは炎の大槍を素手で掴み砕いた。
爆ぜる火花をものともせず、拳を振り抜く。
「うおおおおおおッ!!」
拳が炎を裂き、将軍の胸甲を粉砕する。
衝撃が森全体を揺るがし、炎すら吹き飛ばした。
マクシミリアンは血を吐き、信じられぬ表情で呟く。
「異端……ごときが……この私を……」
その言葉は最後まで続かず、巨体が崩れ落ちた。
燃え残る森の中で、カイは荒い息を吐きながら振り返る。
血に塗れたディランが微かに笑い、震える声で呟いた。
「……やったな……カイ……」
「ディラン! 待ってろ、必ず助け――」
「いい……俺はもういい。だが……お前は……みんなを……」
その瞳が閉じていく。
カイは歯を食いしばり、拳を地面に叩きつけた。
「……ディラン……! 必ず、この拳で……全部の鎖を断ち切る!」
炎が収まった森に、彼の誓いが響き渡った。




