第52話 森を揺るがす影
フィオナの魔法が森を揺るがし、王国兵の列は一瞬で崩壊した。
「魔女だ!」「退け!」と叫びながら、兵たちは次々と鎧を捨てて逃げ惑う。
勝利の兆しに仲間たちが息をついた、その時だった。
「……醜いものだな」
重く低い声が森に響いた。
兵士たちの逃げ道を遮るように、一人の男が現れる。
漆黒の軍装。肩には赤い外套。
手にした大槍の穂先からは、赤々とした炎が揺らめいていた。
男の瞳は冷酷に光り、口元にはわずかな嗤いが浮かんでいる。
「異端を庇う精霊族……そして混血の怪物。
我が信仰を汚す愚か者どもには、ただ火による浄化あるのみ」
「……あれが……」
ハルドが息を呑み、声を震わせる。
「異端狩り将軍――マクシミリアン……!」
その名を聞いた瞬間、仲間たちの背筋が凍りついた。
王国でもっとも苛烈に異種族を狩り、無数の火刑を執行してきた狂信の将。
彼の現れは、ただの戦いではなく“虐殺”の始まりを意味していた。
マクシミリアンは大槍を地に突き立て、冷酷に宣告する。
「――《異端浄火》」
次の瞬間、森全体が轟音を立てて燃え上がった。
無数の火柱が立ち上がり、空を焦がす。
炎の檻の中で悲鳴が上がる。
「やめろッ!」
カイが拳を握り叫ぶが、将軍は嘲笑した。
「異端は炎にくべられてこそ救われる。……見よ」
彼の背後では、兵士たちが泣き叫ぶエルフの子供を縛り上げ、粗末な木材で「火刑台」を組み上げていた。
「……っ!」
フィオナが顔を青ざめさせ、一歩踏み出す。
蒼樹の杖を握る手が震えていた。
「止めてみせろ。……できるものならな」
マクシミリアンの冷酷な声が、炎に包まれた森に響いた。




