第5話 暴走の拳と血の刃
地下実験室を覆う灼熱の炎。
赤黒い鎖がうねり、まるで獲物を嬲る蛇のようにカイへと迫る。
「クハハハ! 燃えろ、燃えろォ! ――《財産消却》ッ!」
タルフ侯の咆哮と共に、炎の鎖が一斉に爆ぜた。
火柱が壁を焼き、鉄檻が融け、空気すらも爆発する。
「うあああああッ!」
カイの小さな体が炎に呑まれる――その瞬間。
胸の魔法陣が光り、背から赤黒い翼の幻影が広がった。
「――《暴走解放》ッ!!」
爆炎を切り裂くように、カイの拳が振り抜かれた。
巨人の怪力と鳥人の跳躍が重なり、火鎖の一本が粉砕される。
燃え盛る断片が飛び散り、炎の檻に隙間が生まれた。
「なに……!? 子供が、鎖を砕いたと……!」
侯爵の顔に、初めて動揺の色が浮かぶ。
「今よ!」
アリシアが鎖を引きずりながら、前に飛び出した。
紅の瞳に宿る決意。呪印の輝きが短剣を包む。
「――《血契呪剣》!」
血を媒介にした呪剣が、火柱を貫いた。
赤黒い斬撃が炎を裂き、火鎖を切断する。
「ガアアアアッ!」
侯爵が絶叫。炎の檻が揺らぎ、熱が一瞬引いた。
「カイ、立ちなさい! あなたの力は、呪いじゃない……生きるための刃なのよ!」
その声に背を押され、カイは歯を食いしばった。
小さな拳に赤と青の光が走り、再び前へ。
「オレは……逃げないッ!」
少年と女の斬撃が交差し、炎の牢獄を切り裂く。
灼熱の中、二人は初めて「共に戦う」形を作り上げたのだった。




