第44話 森の試練
森は静かだった。
しかし一歩進むごとに、空気は重くなり、肌にまとわりつくような圧迫感が増していく。
「……おかしいな」
ハルドが眉をひそめた。
「沢の音が消えた。風の流れも……止まっている」
その瞬間、周囲の景色がぐにゃりと揺らめいた。
気づけば森は暗く閉ざされ、焚き火の光のような幻影が取り囲んでいた。
「な、なんだこれ……!」
ディランが歯を食いしばる。
幻影の中から、兵士たちの姿が現れる。
奴隷を鎖で繋ぎ、鞭を振るう人間の兵士。
そして――仲間たちの亡骸までもが、幻として道を塞いでいた。
「アリシア……!」
カイの目が見開かれる。
紅と蒼の瞳に、彼女の面影が映った。
だが、その幻は無情に囁く。
『お前のせいで私は死んだ……また大切な者を失うぞ……』
「ち、違う……オレは……!」
胸を締め付けるような痛みに、膝が崩れかける。
その肩を掴んだのはフィオナだった。
「カイ! これは幻よ! 本物じゃない!」
彼女自身も幻に囚われていた。
鎖につながれた自分。鞭を振るわれ、泣き叫ぶ声。
過去の傷が生々しく蘇る。
「いや……やめて……!」
弓を落としそうになる手を、カイが握った。
「大丈夫だ、フィオナ。オレがここにいる。だから一緒に立ち向かおう!」
その声に、彼女の瞳が大きく揺れた。
恐怖の幻影が迫る中、二人は互いの手を強く握り、同時に叫んだ。
「――《暴走解放》!」
「――《精霊の矢》!」
紅と蒼の拳が幻影を穿ち、フィオナの矢が幻を貫いた。
光が弾け、兵士も亡骸も霧のように消えていく。
やがて周囲の闇は晴れ、再び森の澄んだ空気が戻った。
「……これが、精霊領への試練か」
ハルドが肩で息をしながら呟く。
「試されたんだ。俺たちが進む覚悟を持ってるかどうか……」
カイは拳を握りしめ、紅と蒼の瞳を燃やした。
――一行は試練を越えた。
その先に待つのは、精霊族の集落。




