第42話 決意の火種
小さな勝利の余韻が去り、森の空気に再び冷たい静けさが満ちていた。
奴隷たちは疲れ切った体を休めながらも、不安そうに顔を見合わせる。
「……で、これからどうするんだ?」
ディランが焚き火に手をかざしながら呟いた。
その声に、誰もすぐに答えることができなかった。
逃げ続けるだけでは、いずれ追手に追いつかれる。
食料も、行き先も、もう限界に近づいていた。
その時、白い毛並みの兎人族の老婆が、静かに口を開いた。
「……昔、この森の奥に“精霊族の集落”があると聞いたことがあるよ」
その言葉に、皆の視線が集まった。
「精霊族……?」
ハルドが目を細める。
「確かに、奴隷解放に理解を示す者が多いと聞く」
老婆は頷き、ゆっくりと続けた。
「わしが若い頃に旅の商人から聞いた話じゃ。森を抜けた先に“精霊領”があって、迫害を逃れた者たちを受け入れていたそうだ」
その場にいた奴隷たちの間に、わずかなざわめきが広がる。
「もし本当なら……」
「助けてくれるかもしれない……!」
期待と不安の入り混じる声。
やがて誰かが、フィオナを見た。
「精霊族なら……フィオナを見れば信じてくれるはずだ」
突然名を呼ばれ、フィオナは驚いたように目を瞬いた。
焚き火の光に照らされた横顔は、まだ影を残している。
「……私が?」
「そうだよ」
カイが力強く頷いた。
「フィオナがいるから、オレたちは希望を持てる。だから一緒に……精霊領を目指そう」
フィオナの胸が強く揺れた。
かつて奴隷として“存在を否定された自分”が、今は“仲間の希望”として見られている。
瞳に涙が滲み、彼女は小さく微笑んだ。
「……うん。行こう。私も……みんなと一緒に」
その言葉に、一行は大きく頷いた。
迷い続けた旅は、初めて“目的地”を得た。
――行き先は、精霊領。




