第41話 小さな勝利
朝の森に、ようやく静寂が戻った。
倒れ伏す兵士たちは呻き声を上げるだけで、もはや追撃の勢いはなかった。
カイたちの隊列は――生き残った。
「……はぁ……はぁっ……!」
拳を振るい続けたカイは、肩で大きく息をしていた。
隣でディランも尻餅をつき、狼耳をぴんと立てながら息を荒げる。
「ぜぇ……へへっ……やったな、俺たち……!」
ハルドは木に背を預け、冷ややかに辺りを見渡した。
口元にはわずかな笑み。
「……追撃は退いた。これで、ひとまず安全だ」
奴隷たちが次々と安堵の声を漏らす。
母親は子を抱きしめ、涙をこぼしながら繰り返した。
「生きてる……生きてるんだ……!」
その光景を見ながら、フィオナは震える手を見つめていた。
弓を握る指先には、まだ矢を放った感覚が残っている。
「私の……矢で、守れたんだ……」
呟く声はかすかだったが、カイはすぐに振り向いた。
「フィオナ! 本当にすごかった!」
紅と蒼の瞳がまっすぐに彼女を見ている。
「オレだけじゃ守り切れなかった。……ありがとう」
胸に熱いものが込み上げ、フィオナは思わず顔を伏せた。
奴隷だった自分には決して届かないと思っていた“感謝”の言葉。
それが今、はっきりと自分に向けられている。
ディランがにやりと笑って叫んだ。
「おい! 今日は勝利の宴だ! 酒はねぇけど、水くらいはあるぞ!」
仲間たちが笑い、疲れた体で小さな輪を作る。
彼らは初めて――自分たちの力で勝ち取った「小さな勝利」に酔いしれていた。
カイは焚き火の横で拳を握りしめる。
「これからもっと強くなる。……この勝利を、大きなものにしていくんだ」
その声に仲間たちが頷く。
夜明けの森には、確かな希望の灯がともっていた。




