第39話 再び迫る追撃
朝靄の森を抜けようとしたその時だった。
鳥の群れが一斉に飛び立ち、乾いた角笛の音が遠くで鳴り響く。
「また追手か……!」
ディランが耳を動かし、険しい顔で呟く。
彼の狼の血が、迫る敵の気配を敏感に捉えていた。
ほどなく、鎧のきしむ音と松明の光が木々の間から現れる。
王国の兵士たちが列を組み、槍と弓を構えていた。
「……数が多い」
ハルドが低く呟き、湿った風を嗅ぐ。
「北東に小川がある。だが、このままじゃ挟み撃ちだ」
奴隷たちの間に恐怖の声が広がる。
母親が子を抱きしめ、老人は杖を握りしめて震えていた。
その時、ディランが一歩前に出た。
「……ここは、俺が時間を稼ぐ」
「ディラン!?」
カイが叫ぶ。
「大丈夫だ、死にはしねぇよ。俺は狼だ。しつこさなら誰にも負けねぇ」
そう言って笑ったディランの顔は、怯えを隠したものではなく、確かな覚悟に満ちていた。
その横でハルドも前に出る。
「俺も行く。水辺に追い込めれば足跡を消せる。……無駄にはさせん
「……わかった。じゃあオレは後ろから援護する!」
カイが拳を握ると、フィオナも弓を構えた。
震える手だったが、その瞳はまっすぐ前を向いていた。
王国兵の隊列が迫り、槍の穂先が森の光を反射する。
次の瞬間、ディランの咆哮が森を震わせた。
「来いよ、人間どもォッ!」
狼のごとき影が飛び出し、戦いが再び始まった。




