第34話 焚き火の輪
夜の森に、ぱちぱちと薪のはぜる音が響く。
小さな焚き火の輪を囲み、一行は疲れを癒していた。
子供たちは母の膝の上で眠り、老人は火に手をかざしてうたた寝をしている。
その少し外側で、カイたち若い者が自然と集まっていた。
「……ふぁぁ、やっぱ夜は冷えるな」
ディランが両腕を組んで震えを誇張する。
「狼人族のくせに寒がりなのか?」
ハルドが低く呟き、火の向こうからにやりと笑った。
「う、うるせぇ! 感覚が鋭いから余計に冷えるんだよ!」
「なら、吠えて体温でも上げたらどうだ?」
「お前なぁ……!」
小競り合いに、フィオナがくすりと笑った。
「ふたりとも、子供みたい」
ディランは耳を赤くして反論する。
「なっ!? 俺は狼男だぞ! 子供扱いは失礼だ!」
「狼“の子”って聞こえるけど?」
フィオナが首をかしげると、ハルドが肩を揺らして笑う。
「お、おいカイ! 笑ってないで何とか言え!」
「え? いや……仲がいいなって思って」
「仲良くなんかねぇ!」
「そういうときに限って息ぴったりだよね」
フィオナの一言で、さらに場が和んだ。
焚き火の炎が仲間たちの顔を照らす。
その温もりの中で、誰もがほんの一瞬だけ、奴隷としての過去を忘れていた。
「……いいな」
カイがぽつりと呟いた。
「こうやって笑える時間が……オレ、守りたい」
その言葉に、ディランもハルドもフィオナも黙り、やがてゆっくり頷いた。
炎に照らされたその表情は、それぞれ違っていても、同じ「希望」を映していた。




