第33話 初めての仲間たち
翌朝の森は霧に包まれ、湿った土と草の匂いが立ち込めていた。
小さな隊列は、互いに支え合いながら歩みを進めていく。
その中で、前夜に名乗りを上げた三人――ディラン、ハルド、フィオナ――が、自然とカイの近くを歩いていた。
「……それにしても、まさか俺が山賊を殴り倒す日が来るとはな」
ディランが頭をかきながら苦笑する。
狼人族の血を引く彼は耳が少し尖り、感覚が鋭い。その分、臆病でもある。
「でも、棒を振るってくれたおかげで助かったよ」
カイが言うと、ディランは耳を赤くした。
「お、おう……。別に勇気なんかじゃない。ただ、怖くて体が勝手に動いただけだ」
「フッ、怖がりが一番先に動いたのだから、大したもんだ」
ハルドが冷ややかに笑う。魚鱗族特有の青い鱗が頬に光り、彼の声は低く落ち着いていた。
「俺は川や沼の地形に詳しい。追っ手が来たときは必ず逃げ道を示す。だが……殴り合いはお前たちに任せる」
「頼りにしてる」
カイが素直に言うと、ハルドは少し驚いた顔をし、やがて小さく頷いた。
その横で、フィオナが歩きながら弓を抱え直した。
長命の精霊族の娘でありながら、彼女はまだ若い。透き通るような緑の瞳が不安げに揺れていた。
「私……本当に役に立てるかな。矢も少ししかないし……」
俯いた彼女に、ディランが大げさに笑いかけた。
「矢が尽きたら石でも投げりゃいいさ! 大事なのは“守りたい”って気持ちだろ?」
「そうだよ」
カイも頷く。
「オレだって、ただ力を振るってるだけ。でも“守りたい”って思いは、きっと全部に勝てる」
その言葉に、フィオナは小さく微笑んだ。
まだ不安は拭えない。けれど確かに、胸の奥に灯がともった。
――こうして、旅は少しずつ「仲間の旅」へと姿を変えていった。
喪失の痛みを抱えながらも、新しい絆が芽生え始めていた。




