第32話 仲間の芽生え
山賊たちを追い払った後、森の小道に静けさが戻った。
だが焚き火の周りに集まった奴隷たちの顔は、恐怖だけではなく、確かな自信を宿していた。
「……本当に、あの山賊たちを……追い払えたんだな」
若者が震える手を見つめながら呟く。
先ほど、勇気を振り絞って棍棒を振るった彼だった。
カイは拳を握りしめ、皆を見渡した。
「オレひとりじゃ、守れなかった。
でも……みんなが立ち上がったから、追い払えたんだ」
その言葉に、奴隷たちは互いに顔を見合わせる。
やがて、一人の若者が前に出た。
「俺は……ディラン。狼人族の血を引いてる。
臆病で、戦うのは怖い。でも……今日、仲間を守るために動けた。
だから、もう逃げるだけの生き方はしたくない。
――カイ、俺も一緒に戦わせてくれ!」
その声に続くように、痩せた男が拳を掲げた。
「俺は魚鱗族のハルド。水路を知ってる。逃げ道を探すくらいなら役に立てる!」
さらに、年若いエルフの娘が前に進む。
「私はフィオナ。弓を少しだけ使えるの。……まだ弱いけど、あなたを助けたい」
それぞれの声が重なり、奴隷たちの中から少しずつ「戦う意思」を持った者が名乗り出ていく。
守られるだけの存在ではなく、共に生き抜く仲間として。
カイの胸に熱いものが込み上げた。
アリシアの死で空いた心の穴が、少しだけ満たされていくようだった。
「……ありがとう。
これからは、オレと一緒に戦ってほしい。
奴隷じゃなく、仲間として!」
焚き火の炎が揺れ、その光が彼らの瞳を照らした。
恐怖に震えていた奴隷の群れは、この瞬間――「仲間」へと変わった。




