第31話 最初の試練
夜明けとともに一行は森を進んだ。
霧が立ち込める小道を、母が子を背負い、若者が老人を支えながら歩いていく。
空腹と疲労は深刻だったが、それでも「自由になれた」という実感が彼らを前へ押し出していた。
だが、その安らぎは長く続かなかった。
「……足を止めろ」
先頭に立っていたカイが、急に声を潜めた。
木々の陰から、粗末な革鎧を着た男たちが現れる。
十数人。刃物や棍棒を構え、にやついた顔で奴隷たちを取り囲んだ。
「へへ……運がいいな。女と子供を連れた群れか」
「荷物を置いてけ。抵抗したら……わかってるよな?」
奴隷たちが悲鳴をあげ、怯えて後ずさる。
母親は子を抱きしめ、老人は震える手で杖を握った。
カイは一歩前へ出た。
「……やめろ」
「なんだ坊主、死にたいのか?」
山賊のひとりが刃を振り上げる。
次の瞬間。
カイの拳が唸りを上げ、男の顎を砕いた。
巨体が宙を舞い、木の幹に叩きつけられて崩れ落ちる。
「な……っ!? 子供だぞ……!」
「化け物か……!」
山賊たちが一斉に武器を構える。
「みんな、下がって!」
カイが叫び、奴隷たちを庇うように立ちはだかった。
数人が同時に襲いかかる。
カイは矢のように飛び出し、拳で棍棒を粉砕し、蹴りで男を吹き飛ばす。
紅と蒼の瞳が光り、暴風のような動きが敵を圧倒した。
だが、数が多い。背後から迫る刃を、咄嗟に奴隷の若者が棒切れで受け止めた。
「ぐっ……!」
「やめろ、下がれ!」
「違う、俺も戦う! 仲間を守るんだ!」
恐怖に震えながらも、若者が叫んだ。
その姿に他の者たちも勇気を得て、石を投げたり、棍棒を振るったりして加勢する。
「……そうだ、一緒に戦うんだ!」
カイの声が響く。
山賊たちは形勢不利を悟り、捨て台詞を残して森へと退散した。
残されたのは荒い息を吐く仲間たち。
恐怖の中で震えながらも、確かに「戦った」彼らだった。
「……やった、追い払えた……」
母親が泣きながら子を抱きしめ、老人が震える声で笑った。
カイは拳を握りしめ、皆を見渡す。
「オレ一人じゃ、守り切れなかった。
でも……みんなが一緒なら、きっと越えられる。
これからも……一緒に進もう!」
その言葉に、小さな隊列から歓声があがる。
恐怖の中で芽生えたもの――それは確かな「絆」だった。




