第3話 逃走の序曲
夜風が吹き込む地下回廊は、鉄と血の臭いに満ちていた。
崩れた扉の向こうから、武装した兵士たちが雪崩れ込んでくる。
「奴隷どもが暴れ出したぞ! 殺せ! 一匹残らずだ!」
怒号が響き渡る。
カイは血に濡れた拳を握りしめ、アリシアの横に立った。
鎖に繋がれたままの女は、疲弊しながらも瞳を燃やしている。
「……あなた、戦える?」
「わからない。でも……逃げたい」
「なら、私に合わせなさい」
次の瞬間、兵士の剣が振り下ろされた。
カイは本能のままに跳躍し、小さな拳で兵士の顎を砕く。
その動きに合わせて、アリシアの短剣が赤黒く光を放った。
「――《血契呪剣》ッ!」
呪印が弾け、兵士の鎧を裂く赤光が奔った。
血飛沫が舞い、敵が崩れ落ちる。
「すごい……」
カイの瞳に初めて驚きが宿る。
アリシアは息を荒げながらも微笑んだ。
「いいえ……これは呪いよ。けれど、あなたの力は違う。生きるための力」
兵士たちが次々押し寄せる。
矢が飛び、炎が迫る。
「一緒に……やるぞ!」
カイは叫んだ。
「ええ――!」
二人の動きはぎこちなくも、確かに噛み合っていた。
カイが拳で盾を砕き、アリシアが呪剣で隙を穿つ。
互いの攻撃が重なり、兵士たちは一人、また一人と倒れていく。
「馬鹿な……子供と女が、なぜ……!」
最後の兵が恐怖に震え、後退する。
アリシアは鎖を引きずりながら、カイの肩に手を置いた。
「行きましょう。外に出られれば、きっと……」
その言葉を遮るように、屋敷全体を揺らす轟音が響く。
石壁が崩れ、炎が天井を這う。
「タルフ侯……奴自身が出てくる」
アリシアの顔が蒼ざめた。
カイは震える拳を握り直す。
恐怖よりも強い感情――初めて得た「共に戦う仲間」への想いが、幼い胸に灯っていた。
今日の21時に続きを投稿予定です。
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